5章 キセキの恋文と勿忘草






 遠くでアラームが鳴っている。

 久しぶりに聞く音だ。

 最近はアラームの時間になる前にヒメムラサキが強烈なボディープレスとともに起こしてくれるので、電子音で目覚めることはほとんどなかったのだ。

 私は、まだまどろんでいる。

 眠い。でも、起きなくちゃ。

 あれ。


 どうして、ヒメムラサキは起こしてくれないのだろう。




「……えっ?」




 目がさめる。そして、状況を理解する。

 そして、青ざめる。

『むにゃ、おっはよう。はるちゃん……えへへ、ごめんね。ヒメってば寝坊しちゃったみたい』

「あ、あわ」

 裸、である。

 一糸まとわぬ姿で、ベッドで寝ていたようだ。

 そして、隣からむくりと起き上がったヒメムラサキも――真っ裸だった。

「ひえぇっ」

『ふふ、照れちゃってるの?』

 しなやかな肢体。

 薄く色づいた乳首。

 桜色の、唇。

「うっそ……ぉおぉっ!」

 あまりの事態に頭を抱えて、布団の中に潜り込む。

 私、私、こんな旅先で……どうしてヒメムラサキと、ふたりとも裸で布団に入っているの。

 神崎奇跡の遺したT.S.U.K.U.M.O.の顕現体と、私、もしかして……。


 必死に、昨晩のことを思い出す。

 そうだ、あれは――まるでアラビアンナイトみたいな。