バーチャルアシスタントであるヒメムラサキは、食事をしない。
ただ、私がソースかつ丼を食べているのを楽しげに眺めていた。
『あ、はるちゃん。ソースついてるよ!』
「え?」
『とってあげる』
ぐい、テーブルの向こうから身を乗り出してひょい、と私の頬をふきんで拭ってくれる。
「……っ、」
そんな何気ない動作に、どくんと心臓が跳ねる。
恋人。
昨日の夜、ヒメムラサキの口から出た言葉が思い出されてしまう。
それで、余計に意識をしてしまって。
『ん? どうしたの、はるちゃん』
「なんでもない、ありがとう!」
残りのソースかつ丼をぐわっとかっ込む。
――だって。
こんなの変だ、おかしいよ。
ヒメムラサキは、人じゃないし。
ヒメムラサキは、少女の姿をしているし。
なにより、ヒメムラサキは、姉の幼いころの姿に似ている。
そんな存在に、恋というか、なんというか、そういうことを意識するというのは、すごく間違っている。
それは私には恋人はいないし、大嫌いな姉への劣等感を拗らせていて、その姉を嫌うのと同じくらい凡庸な自分のことも大嫌いで。
だから、そんな私のことをいつだって気にかけてくれるヒメムラサキに少し心を奪われてしまっているのかもしれない。
でも、でも――そんなの所詮は、ニセモノだ。