顕現体、というのだそうだ。

 T.S.U.K.U.M.O.システムの一番の特徴は、画面内だけではなく現実にバーチャルアシスタントを存在させることができるのだ。

 付喪神という神格をベースにした呪術的な処理によって可能になっているというその技術は、なんと自宅でスタートアップできるのだという。

「よっしゃ、やるか」

 帰宅したワンルームのアパート。

 大学へ提出するレポートを仕上げて、さくっと夕食を食べた。

 先ほど手渡された『T.S.U.K.U.M.Oシステム起動の手引き』と書かれた冊子に目を落とした。

 携帯電話の電源を入れないままに、そこに書いてあることを、たどたどしく読み上げた。T.S.U.K.U.M.O.システムの軌道は呪符と言霊によるものだ。



「オン、――仮想神格T.S.U.K.U.M.O.起動。コード・ソワカ。顕現せよ、【ヒメムラサキ】」



 その掛け声とともに、バーコードリーダーに照らされたA4の札が輝く。

 指示されたとおりに血を塗りこめた箇所がとりわけピカピカ光っていた。

 それに見とれていると、ぼやりと、空気がゆがむ。