私は、置いていかれてしまった。

 綺麗で特別で神様みたいな神崎奇跡は私にとってだけは普通のお姉ちゃんだと思っていた。それは、ただの驕りだったのだ。

 大嫌い。

 私をあの家に置いていった、神崎奇跡が大嫌い。

 だってあの家にあるものは、全部奇跡のものだから。

 文房具も、服も、両親の愛情だって、全部奇跡のお下がり――中古品なのだ。

 ランドセルすらも、二年後に私がランドセルを買う番になったとき両親はまた出遅れた。

『奇跡ちゃんだって、残り物を買ったのよ。残り物には、福がある』

 残り物には福がある。

 そんな、おためごかしみたいな言葉で私をなだめようとした母。

 でも、私はフリルのついたランドセルが欲しかった。

 自分が特別な人間じゃないことはちびっ子ながらに分かっていたから、ランドセルくらいは少しだけ特別なものを背負いたかった。

 なのに、出遅れてしまったあの鞄屋にあるのはやっぱりシンプルなものばかりで、フリルや刺繍がついたカラフルなランドセルは店頭展示品だけになっていた。

 それでもいい、と買ってもらった空色のランドセル。

 ――それには、受け取った瞬間から小さな傷がついていた。

 入学式から卒業式まで、ずっとその傷はランドセルについていた。

 私は中古品は大嫌い。

 どんなに私が大事にしても、ついに本当に私のものにはならないから。