その夜私は夢を見た。

 それは神崎奇跡が、実家を出ていく朝の夢だ。

 私は大学受験というのが少しずつ現実問題として輪郭を帯びてくる日々に辟易している高校三年生だった。

 姉を溺愛する両親と、神様みたいな姉。でもその姉は私にだけは優しくて、どこにでもいる普通のお姉ちゃんだった。

 アイスクリームやホットココアを片手に山之上神社で夕日を見ながらおしゃべりをする日々が、これからも続くのだと、そう思い込んでいた。

 大学受験の愚痴だったり、進路が決まったお祝いだったり、そういったものをあの夕焼け色の鳥居の麓でぽつりぽつりと語らうのだと、思い込んでいたのに。

 ――それなのに。

 神崎奇跡は出ていってしまった。

 遠い町で暮らすのだと言って、何も相談してくれないままに。

 まるで夜逃げみたいに。