私は思い出話を続ける。

「最初、親は納得していないふうだったんだけどさ、奇跡がなんだか優雅にランドセルを背負ってね、『どうかしら』って言ったの。黒い、たぶん男の子向けのランドセル。そうしたら、その姿がね……なんというか、ちょっとないくらいに神秘的っていうか、美しかったんだ」

『それで、結局そのランドセルにしたの?』

「うん。しかも、すごくよくあるタイプのランドセルだからさ、在庫も十分にあったしちゃんと春休みまでに箱に入った新品のランドセルを届けてもらえることになったんだ」

『よかったじゃない』

「しかも、奇跡のランドセル姿をせっかくだからって鞄屋さんが写真に撮ったんだけどね……後日、家に連絡があったんだよ。『おたくのお嬢様に、弊社の広告に出演頂けませんか』って」

『へえぇ!』

「全然、全国区でもなんでもない鞄屋さんなんだけど、ポスターとかカタログとかに奇跡の写真を使いたいって言い始めてさ、たしか一年間限定で写真が使われたんじゃないかな」

『見たかったなぁ』

「実家にサンプルでもらったポスターがまだ残っているかもしれないよ」

『今度、探してよ?』

「気が向いたらね」

『気を向けて、ヒメのためにっ』

「はいはい。ランドセルの実物もあるかもしれないなぁ」

 ――ランドセル。

 奇跡の黒いランドセル。だけれど、私のランドセルは――