『はるちゃん?』

 ぼんやりとしてしまっていたようだった。

 ヒメムラサキが私の髪を撫でる。

 いつのまにか、すっかり髪は乾いていた。

「ごめん、なんでもないよ」

『それで、ランドセルはどうしたの?』

「ああ、結局ね。両親が鞄屋さんをどうにか説得して、店中にあるたくさんのランドセルをかき集めてさ。奇跡の前に並べたの。ぴかぴかのランドセルがたくさん並んでいてね、両親としては可愛くて綺麗な娘に、特別なランドセルを買ってあげたいっていう気持ちがあったんだと思う」

『ふうん、そういうものなんだ。それで奇跡はどんなランドセルを選んだの?』

「なんの飾り気もない、黒いランドセル」

『へえ』

「お店が変な雰囲気になったよ。薄く笑いながら、たくさんのランドセルを見て回ったあとに『私はこれがいい』って、黒いランドセルを指して言ったの。両親は、特に母はそれに驚いてさ。『もっとちゃんとしたランドセルだってあるわよ』ってそう言ったの」

 黒いランドセルだってちゃとしてるのにね。

 と言うとヒメムラサキは少し笑った。