「それでは、刻印いたしますね」

 スタッフが私の血が塗りこめられたA4判のお札に、専用の器具をかざす。

 バーコードリーダーみたいで、呪術とは程遠いようなビジュアルだった。ぴっぴ。

 手続きがすべて終わったときには、そこそこに疲れていた。

 少量とはいえ血を出すようなことがあると疲労度が高くなる……気がする。

「それでは、本日はお時間をいただきありがとうございました」

「あ、はい。こちらこそ」

 最後まで完璧なスマイルを崩さなかった受付スタッフのおじぎに、つられて頭を下げる。

 頭をあげると。

 カウンターは空っぽだった。

「えっ」

 消えた?

 まさか、こんな清潔で明るい店内に幽霊が?

 私は驚いて声をあげる。

 すると、隣のカウンターで仕事をしていた別のスタッフが眉毛をハの字にして顔を出した。

「申し訳ございません、端末の電源が切れてしまったようで」

「は、端末?」

 ひょい、とスタッフが取り出したのはボロボロの携帯端末だった。

「あ、もしかして、今の方って……」

 その携帯端末には、いましがた私が相続したのとそっくりな刻印がほどこされている。



 つまり。

 その端末にも、T.S.U.K.U.M.O.が憑いているようだった。

「ええ、うちの店舗でもう十年スタッフをしてくれているT.S.U.K.U.M.O.です。ほとんど人間と変わらなかったでしょう?」

 スタッフは、自分のことのように誇らしげに言う。

 仮想神格T.S.U.K.U.M.O.システムは、一般人が所有するには高価なので企業での使用は浸透してきている。

 このようにデモンストレーションとして使用される付喪神はハイクオリティである。

 人間と大差ないほどに『使い込まれている』のだ。

 手元の端末を眺める。

 さて、姉の遺したT.S.U.K.U.M.O.は、いったいどんな付喪神が宿っているのだろうか。