『じゃあ、ヒメから質問!』
ヒメムラサキが弾んだ声で言った。
勝負はあっけなくついて、ヒメムラサキに軍配が上がったのである。
「おっけぃ、勝負は絶対だからね」
『殊勝だねっ。じゃあヒメからの質問……はるちゃんは、どうして奇跡が嫌いなの?』
「いきなり確信に切り込んでくるねぇ」
ふふ、と思わず苦笑した吐息が漏れてしまう。
まだ私の髪を乾かす作業に打ち込んでいるヒメムラサキが、それに気づいたかはわからない。
『じゃあ、質問変えてあげる。手始めに……、そうだね、はるちゃんが覚えている奇跡との一番古い思い出は?』
「一番、か……そうだねぇ」
神崎奇跡との思い出の糸を手繰りながら、深く目を閉じる。
眠い、という意識はあるけれどもやっぱりまだ眠れそうにない。
「そうだね、奇跡との思い出で一番古いのは、ああ、そうだ。ランドセルを買いに行ったことだね」
『ランドセル? はるちゃんの?』
「まさか、奇跡のだよ。お姉ちゃんが六歳くらいだから、私は三歳くらいかな」
『そんな小さいころのこと覚えているんだ』
「うん、半分は捏造された記憶かもしれないけどね。で、ランドセルを買いに行った日の話なんだけどさ」
あれは、真冬のことだった。