付喪神。

 長い年月を人とともに歩んできたモノに、神格が宿り妖怪となる。
 そんな、この国の伝承だ。

 自我や思考能力を持った式神としてもっとも扱いやすい付喪神。

 それを携帯電話という日常肌身離さず持ち歩く物品に人為的に宿らせることで、デジタルアシスタントとして稼働する技術。

 それが開発されたのである。

 それによって、私たちの国は、思考能力、学習能力を兼ね備えた自律型の、しかも現実に干渉できるインターフェイスを持ったバーチャルアシスタントを生産することに成功したのだ。

 システムの擬人化。

 そんな言葉で表現されることもある画期的な技術である。

 しかし、このT.S.U.K.U.M.O.システム。

 世界的な発見のはずが、地域によっては挙動が不安定なため今のところは我が国でガラパゴス化した技術となっている。

 他国では、呪術、あるいは付喪神という概念を受け入れるにいたっていないのだそうだ。宗教的な問題というやつである。

「こちら、お使いください」

 差し出されたのは、使い捨ての採血針だった。血糖値を計るときとかにつかう、あれだ。

 針が飛び出してくる部分に親指を押し当てる。ボタンを押すと、「バチン!」という音とともに親指に痛みが走って、ぷっくりと血が浮き上がってきた。

 T.S.U.K.U.M.O.システムの根幹は呪術である。

 よって、その初期設定には契約者の血を使う。

 これはたしかに世界的に普及しろというほうが難しい。

 だって、

「いててっ!」

 めっちゃ痛いんだもの。