『はるちゃんひどい!』

「ご、ごめんって」

 慌ててリュックの中をひっくり返す。冷たいものが指先にあたった。 

 保冷剤だ。

「あった」

 引っ張り出したのは、紙バックに包まれたサンドイッチ。

 ハムとスライスチーズのシンプルなお味。

「ん、チーズ多めだね。うまぁ」

『冷蔵庫の中を全部使い切るときにだけ発動する、超豪華ヒメスペシャルだよ』

 たしかに冷蔵庫の中に、ハムと、ちょっと多めのスライスチーズが残っていた気がする。

 お行儀が悪いけれど、立ったままでパクリパクリとサンドイッチにかじりつく。

 口の中に広がるマヨネーズ味と。

 それからこれは、粒マスタードの風味だ。

 数日前の朝食に出されたウィンナー炒めのときに、『少し残してよ~』と言われたのは、このためにだったのか。

 うん、これは……。

『どう、はるちゃん?』

「もう、絶品!」

 声が存外に大きかったようで、少しむこうにあるベンチに腰かけていたおじいさんがギョッとした顔でこちらを見ていた。

 おじいさんに、ヒメムラサキの姿は見えない。

 ……持参のサンドイッチを駅のホームでほおばって食レポしている女になってしまった。