『この旅行ではさ、たくさんおしゃべりしようね。はるちゃん』

 ジワジワと蝉が絶叫する乗換駅でヒメムラサキは唐突に言った。

「ええ? 普段からしてない?」

『普段、はるちゃんってどれくらい外出してる?』

「ん、と。朝九時ごろから、バイトがあると十一時ごろまで?」

『寝る時間は?』

「んっと、一時頃から、八時くらいまで」

『ということは、起きてる時間は全部で?』

「三時間……」

『そういうことだよ~。一緒にいるのに、全然おしゃべりできてない!』

「でも、バイトがない日もあるし」

『あったとしても、せいぜい週に一日でしょ。ヒメはもっと、はるちゃんとおしゃべりしたいよ』

 ぐうの音も出なかった。

 ジワジワと、蝉は泣きわめく。

 息を吸う、肺が熱い。だらりだらりと汗が垂れる。

 空はどこまでも青くて、白い雲を拒絶している。

 強い日差しは、黒い影をアスファルトに焼き付けている。

 昼下がりの、気だるい、夏。

 たぶん世界が終わるとしたら、こんな鮮やかな夏の日なんだと、なんだかそう思えてしまうような時間だった。

「じゃあどんなおしゃべりをしようか」

 周囲に誰もいないことを確認して、小さな声でヒメムラサキに語り掛ける。

『そうだねえ、じゃあまずは手始めに――リュックの中のサンドイッチの感想かな』

「あ、忘れてた」

 そうだ、リュックの中に軽食。そういえばそんなことを言っていた。