「遺言なら、仕方ないですよね」
私の言葉に、店員に笑顔が戻る。
「では、こちらに血判を!」
こちら、と目の前に提示されたのはA4サイズにぎっちりと書き込まれた筆文字の、何か読めない、記号とか文字とか。
それは、呪符。
本物は初めて見た。
姉のスマホには、オプションでT.S.U.K.U.M.O.が憑いている。
――仮想神格T.S.U.K.U.M.O.システム。
日本に古来から伝わるつくも神信仰を下敷きにした呪術システムである。
人工知能の開発に行き詰っていた我が国は、脈々と受け継がれてきた呪術や巫術に活路を見出した。
ある天才科学者であり陰陽師として名高いエンジニアが、研究に研究を重ねて実用化したのがこのT.S.U.K.U.M.O.システムである。
本来であれば、付喪神というのは長く人の手で使い込まれ、愛されてきた物品に宿る怪異であり神秘。
この国で科学の陰日向に咲き続けてきた呪術というテクノロジーにおいては、非常にポピュラーな現象である。
AIだとか人工知能だとか機械学習だとか、文系の私には厳密なことはわからないけれど、とにかくそういったテクノロジーの開発に一歩遅れを取った我が国が目を付けたのが、
――つくも神だった。