***
梅雨が近づく。
この季節になるとジメジメ汗ばむ日も増えて、カエルの鳴き声も大合唱になってくる。
この感じ、やっぱりニューギニアの森に似ていて懐かしい。
昇さんに見せるために持って行った写真を向こうに置いてきてしまったあたしは、晶のお父さんのほとぼりが冷めた頃、晶のひいおじいちゃんに謝りに行った。
「おじいちゃん、いる?」
「いるよ」
「おとうさんは?」
「いない」
ふたりで、くすくすと笑う。
「おじゃましまーす」
おじいちゃんは、玄関に腰掛けてた。
「あ、ああ、ああ。よーぐ来だなぁ」
「えっと」
「ささ、入れ、すぐに茶をいれさせっがら」
おじいちゃんは、あたしを初めて見たみたいに丁寧に招き入れ、前と同じようにいそいそと自分の部屋の押し入れへ向かい、中から漆塗りの文箱を出してきた。
「この写真は、おじょうさんのだんべ」
昇さんのカメラ、「また」届けられてたんだ。
晶とふたりで顔を見合わせて、くす、と小さく笑いあった。
「形見……、返しに行ったら、阿久津の実家も行こう」
「うん。そうだね…って、家、知ってるの?」
「世間って案外、狭いんだよ」
「えっ、それってどういう……」
ニヤリと笑って晶がカシャリとシャッターを切った。
「あ!だから変な時に撮らないでってば!もう」
「昇の時は1枚しか撮れなかったからね」
前はすごく嫌だったけど、もう嫌じゃない。
でも照れくさいから、まだ嫌がっておこう。
そんなことを考えてたら、構えたカメラを降ろした晶が、真面目な顔であたしに言った。
「弥生、大人になったら、南十字星を見に、あの島へ行こう」
「うん。必ずね」
昇さんだったきみが仲間たちと眠る、あの島へ……
そしてあたしは名誉なんて必要のない、この平和でつまらない、別段キラキラしないありふれた日常を、「普通」のきみとしっかり歩いていきたい。
あたしたちが大人になっても、ひいおじいちゃんくらい歳をとっても、ずっと、ずっと――
完
梅雨が近づく。
この季節になるとジメジメ汗ばむ日も増えて、カエルの鳴き声も大合唱になってくる。
この感じ、やっぱりニューギニアの森に似ていて懐かしい。
昇さんに見せるために持って行った写真を向こうに置いてきてしまったあたしは、晶のお父さんのほとぼりが冷めた頃、晶のひいおじいちゃんに謝りに行った。
「おじいちゃん、いる?」
「いるよ」
「おとうさんは?」
「いない」
ふたりで、くすくすと笑う。
「おじゃましまーす」
おじいちゃんは、玄関に腰掛けてた。
「あ、ああ、ああ。よーぐ来だなぁ」
「えっと」
「ささ、入れ、すぐに茶をいれさせっがら」
おじいちゃんは、あたしを初めて見たみたいに丁寧に招き入れ、前と同じようにいそいそと自分の部屋の押し入れへ向かい、中から漆塗りの文箱を出してきた。
「この写真は、おじょうさんのだんべ」
昇さんのカメラ、「また」届けられてたんだ。
晶とふたりで顔を見合わせて、くす、と小さく笑いあった。
「形見……、返しに行ったら、阿久津の実家も行こう」
「うん。そうだね…って、家、知ってるの?」
「世間って案外、狭いんだよ」
「えっ、それってどういう……」
ニヤリと笑って晶がカシャリとシャッターを切った。
「あ!だから変な時に撮らないでってば!もう」
「昇の時は1枚しか撮れなかったからね」
前はすごく嫌だったけど、もう嫌じゃない。
でも照れくさいから、まだ嫌がっておこう。
そんなことを考えてたら、構えたカメラを降ろした晶が、真面目な顔であたしに言った。
「弥生、大人になったら、南十字星を見に、あの島へ行こう」
「うん。必ずね」
昇さんだったきみが仲間たちと眠る、あの島へ……
そしてあたしは名誉なんて必要のない、この平和でつまらない、別段キラキラしないありふれた日常を、「普通」のきみとしっかり歩いていきたい。
あたしたちが大人になっても、ひいおじいちゃんくらい歳をとっても、ずっと、ずっと――
完