「噛まれたの!?」
「ああ、やられた」
「どうしよう!あっ、薬!そうだ薬!なんの薬が効くんだろう!?」
「毒ヘビだったら、程度にもよるが血清が必要になる」
「そんな…っ」
「火を焚いていればヘビは来ないと思って油断した。お前にケガがなくて良かったよ」
「とにかく!とにかく傷口洗おう!ミネラルウォーターいっぱいあるから!」
「それは助かる」
どうしよう。
あたしのせいで、昇さんがヘビに噛まれた。
手元、ちゃんと見てなかったからだ……。
全然体調良さそうだったし夜は敵襲もほとんどないから、って、きっとあたしが来たことで歴史が変わって、昇さんは死なないんだと思ってた。
これで死んじゃうってことなの?
嘘だよね?
毒のないヘビのほうが、多いって言うし!
「具合、どう?」
「傷口は少し痛むが、とりあえずなんともなさそうだ。心配かけたな」
「よかったぁ」
心なしか顔色が悪そうな気がしないでもないけど、夜だからそう見えるのかな。
びっくりしたけど、ホッとした。
「ねえ昇さん。戦争が終わったら、何したい?」
「そうだな。やっぱり写真だな」
「あ!それで思い出した!見てこれ」
あたしは、リュックのポケットから写真を一枚取り出して、昇さんに見せた。
初めて会った日の、海辺の写真。
「どうしたんだこれ」
「戦後ね、……昇さんが現像したんじゃないかな」
「ああ、なるほど。よく撮れてるな」
考えなしに写真を出して、形見のカメラに入ってたことを言ったら昇さんが戦死したって言ってるようなものだ、と咄嗟にごまかした。
「それをね、昇さんの弟さんに見せてもらったの」
「実にか?家に行ったのか?」
「それがなんとね、うちの超近所!幼なじみの家なんだよ」
「しょう……」
昇さんの口から、予想もしない名前が出てきて、心臓が止まるかと思った。
「え?なんでわかったの?」
「やっぱりな。前に寝言で呼んでたぞ」
「えー何それやだ!あんなの夢に出てきたとか悪夢なんですけど」
「好きなんじゃないのか?」
「まさか!ただの幼なじみだよ!」
生まれ変わるっていう話は、しない方がいいかな。
「なんだ。俺はてっきり……ああ」
「どうしたの?」
慌てて誤解を解いたところで、昇さんが目をこすった。
「おかしいな、マズイかもしれん」
「え…」
昇さんの手からラムネ瓶がすり抜けて、ゴトリと鈍い音がした。
「どうやら俺はここまでみたいだな」
「え、ダメだよそんなの、治るよ!頑張ろうよ!」
ぐったりとして、あたしに寄り掛かるように倒れた昇さんが、力なく笑って言った。
その額には、玉のような汗がにじんでいた。
「暑いの?冷やす?おでこひんやりシートあるよ…っ」
「すまないな」
「謝んないでよ、あとは、えっと…っ」
あたしはパニックだった。
あたしのせいだ。
あたしのせいで昇さんが死んでしまう。
あたしが来なければ、昇さんは慎重に歩き続けて、サルミの受け入れ拒否にも絶望することなく、終戦の日まで生き抜けたかもしれないのに!
来るんじゃなかった。
来るべきじゃなかった。
そもそも、向井さんたちだって、あたしがいなければ死ななかったかもしれないんじゃないの?
そうだよ。
だってあたしと昇さんが会わなければ、昇さんはもっと早くヤコンデに着いて、湖に爆弾が落ちた頃にはもうその辺りにはいなくて、そうしたら向井さんがあの魚に当たることもなくて。
渡河で昇さんがあたしを背負ってなかったら、山根さんが流されることもなくて。
山根さんの熱は何が原因かわからないけど、マラリアにしてもなんにしても、流されて体調が良くなかったから病気に負けてしまったのかもしれない。
阿久津さんだって、あたしを気遣って休憩したりしなければ、ずんずん進んで渡り切ってたかもしれない。
あたしと関わらなければ…っ
「昇さん、あたしのせいで…っ……ごめんなさ…っ」
「お前を守るためならなんだってする、そう言ったろ」
「でもっ…でも……っ」
「これで俺は名誉の死だ。……いいや、お前を守る為に生まれて、お前を守る為に生きた。それでいいんだ」
「…っ」
「お前が戻るのを見届けられないのが心残りだが……きっと帰れるさ」
「嫌だよ、昇さん。あたし戻らない!ずっと昇さんといるって決めて来たの!」
今日が終わるまであと数時間しかない。
本当に昇さんが今日、死んでしまうとしたら、もう数時間で……
嫌だよ、そんなの、嫌だよ……っ
「ああ、やられた」
「どうしよう!あっ、薬!そうだ薬!なんの薬が効くんだろう!?」
「毒ヘビだったら、程度にもよるが血清が必要になる」
「そんな…っ」
「火を焚いていればヘビは来ないと思って油断した。お前にケガがなくて良かったよ」
「とにかく!とにかく傷口洗おう!ミネラルウォーターいっぱいあるから!」
「それは助かる」
どうしよう。
あたしのせいで、昇さんがヘビに噛まれた。
手元、ちゃんと見てなかったからだ……。
全然体調良さそうだったし夜は敵襲もほとんどないから、って、きっとあたしが来たことで歴史が変わって、昇さんは死なないんだと思ってた。
これで死んじゃうってことなの?
嘘だよね?
毒のないヘビのほうが、多いって言うし!
「具合、どう?」
「傷口は少し痛むが、とりあえずなんともなさそうだ。心配かけたな」
「よかったぁ」
心なしか顔色が悪そうな気がしないでもないけど、夜だからそう見えるのかな。
びっくりしたけど、ホッとした。
「ねえ昇さん。戦争が終わったら、何したい?」
「そうだな。やっぱり写真だな」
「あ!それで思い出した!見てこれ」
あたしは、リュックのポケットから写真を一枚取り出して、昇さんに見せた。
初めて会った日の、海辺の写真。
「どうしたんだこれ」
「戦後ね、……昇さんが現像したんじゃないかな」
「ああ、なるほど。よく撮れてるな」
考えなしに写真を出して、形見のカメラに入ってたことを言ったら昇さんが戦死したって言ってるようなものだ、と咄嗟にごまかした。
「それをね、昇さんの弟さんに見せてもらったの」
「実にか?家に行ったのか?」
「それがなんとね、うちの超近所!幼なじみの家なんだよ」
「しょう……」
昇さんの口から、予想もしない名前が出てきて、心臓が止まるかと思った。
「え?なんでわかったの?」
「やっぱりな。前に寝言で呼んでたぞ」
「えー何それやだ!あんなの夢に出てきたとか悪夢なんですけど」
「好きなんじゃないのか?」
「まさか!ただの幼なじみだよ!」
生まれ変わるっていう話は、しない方がいいかな。
「なんだ。俺はてっきり……ああ」
「どうしたの?」
慌てて誤解を解いたところで、昇さんが目をこすった。
「おかしいな、マズイかもしれん」
「え…」
昇さんの手からラムネ瓶がすり抜けて、ゴトリと鈍い音がした。
「どうやら俺はここまでみたいだな」
「え、ダメだよそんなの、治るよ!頑張ろうよ!」
ぐったりとして、あたしに寄り掛かるように倒れた昇さんが、力なく笑って言った。
その額には、玉のような汗がにじんでいた。
「暑いの?冷やす?おでこひんやりシートあるよ…っ」
「すまないな」
「謝んないでよ、あとは、えっと…っ」
あたしはパニックだった。
あたしのせいだ。
あたしのせいで昇さんが死んでしまう。
あたしが来なければ、昇さんは慎重に歩き続けて、サルミの受け入れ拒否にも絶望することなく、終戦の日まで生き抜けたかもしれないのに!
来るんじゃなかった。
来るべきじゃなかった。
そもそも、向井さんたちだって、あたしがいなければ死ななかったかもしれないんじゃないの?
そうだよ。
だってあたしと昇さんが会わなければ、昇さんはもっと早くヤコンデに着いて、湖に爆弾が落ちた頃にはもうその辺りにはいなくて、そうしたら向井さんがあの魚に当たることもなくて。
渡河で昇さんがあたしを背負ってなかったら、山根さんが流されることもなくて。
山根さんの熱は何が原因かわからないけど、マラリアにしてもなんにしても、流されて体調が良くなかったから病気に負けてしまったのかもしれない。
阿久津さんだって、あたしを気遣って休憩したりしなければ、ずんずん進んで渡り切ってたかもしれない。
あたしと関わらなければ…っ
「昇さん、あたしのせいで…っ……ごめんなさ…っ」
「お前を守るためならなんだってする、そう言ったろ」
「でもっ…でも……っ」
「これで俺は名誉の死だ。……いいや、お前を守る為に生まれて、お前を守る為に生きた。それでいいんだ」
「…っ」
「お前が戻るのを見届けられないのが心残りだが……きっと帰れるさ」
「嫌だよ、昇さん。あたし戻らない!ずっと昇さんといるって決めて来たの!」
今日が終わるまであと数時間しかない。
本当に昇さんが今日、死んでしまうとしたら、もう数時間で……
嫌だよ、そんなの、嫌だよ……っ