全て話しても、昇さんのサルミヘ向かう決心は揺るがなかった。

『そうか』

とだけ言って、あとは話を逸らすみたいに持ってきた食べ物のことをアレコレ訊いてきたりした。


だけど日没が来て暗くなると、昇さんの気持ちにも陰りが見えた。


パチパチと火の音。

この音、懐かしい。

たった1週間かそこらなのになぁ、なんて物思いに耽っていたら。

炎を眺めながら缶詰を頬張り、うまい、うまいと言っていた昇さんがポツリと呟いた。


「サルミへ行けないということは俺も結局、無駄に死ぬのかな」


無駄……って。


「…っ、無駄なんかないって言ったの、昇さんでしょ?なんでそんなこと言うの…」

「だってそうだろう。同じ死ぬにしたって、サルミでもう一戦、とでもなって敵と刺し違えるなら名誉なことだが、向井も、山根も、阿久津も…他の奴らも皆ここで野垂れ死んだ。お国から立派な装備を賜って戦地にありながら、敵の目からこそこそと逃げ回るだけの軍人など」


昇さんが言うこともわかる。

ここに数日いれば、あたしみたいな平和ボケにも、少しは戦争中の考え方とあたしの暮らしてた時代とは全然違うってことがわかってくるんだ。

同じ死ぬなら敵もろとも、山根さんも言ってた。


だけど、名誉って何?

100歩譲ってお国のためはわかるよ、わかんないけど、気持ちはわかる。

家族のためとかもわかる。これは超わかる。

でも、でも。


名誉って何!


人殺しだよ、殺人なのに。

殺らなきゃこっちの命が、日本が、危険にさらされる、だから仕方なくでしょ。

それ以上でもそれ以下でもないはずなのに、名誉って。

そもそも、向井さんも山根さんも阿久津さんをそんなふうに言うなんて…


「野垂れ死にって何?名誉って何?結局昇さんが一番弱虫だよ!」
「お前…」

「死にたくない、生きたいって言った向井さんが一番普通だったよ、殺した人にも家族があるって夢にうなされ続けた山根さんもまともだった!疑問を持ちながらもやるしかないならってなんとかお国のためって大義名分に納得しようとしてた阿久津さんは立派な軍人だった!でも、昇さんは何?名誉に縋らなきゃ立ってられないの?」
「なっ…」


あたしは知らなかった。

こんな時代があったなんて。

こんな考え方があったなんて。


だけど、こんなの絶対間違ってる。

無駄な死に方とか、名誉な死に方って考え、絶対に違う!