結局、自分の気持ちのせいで目的を見失ったあたしは、あの後、どこへ行くでもなくただ、歩いて。

暗くなっても歩けるように灯りも持ってきたのに、それも使わず、食事もとらずに、日没とほぼ同時に寝袋を広げて眠りについた。

悪いことばかりが頭に浮かんでなかなか寝付けなかったけど、いつの間にか朝。

……あたし、いつから眠ってたんだろう。


起きても、特にすることはない。

だけどなぜか歩いていた。

たった2週間足らずの生活だったけど、ここであたしは毎日、日の出とともに活動を始めて、歩き続けてた。

それが、間をあけた今でも、体で覚えているみたい。


昇さんは今日、死ぬ。

ううん、きっともう……

よそう。

とにかくあたしはもう、また何かの偶然で戻れることがない限り、ここで死ぬんだ。


昇さんと同じ土の上で死ねるなら、それでいいじゃない。

なんとなく、そんなことをぼーっと考えながら、歩いていた。

昨日と違って寄り道をしていないから、どんどん進む。

進んだって意味はないけど。


進む理由がなくても、生きる意味がなくても、お腹は減る。

太陽が真上にきて、あたしはリュックからチョコクッキーを取り出し、噛り付いた。

昇さんと食べようと思って持ってきたけど、ちまちま食べる理由もない。

そう思って、サクサクとやけ食いみたいに何枚も食べた。




「弥生?」



え?


聞き覚えのある声。

そしてこの時代であたしをこの名前で呼ぶ人は、ひとりしかいない。

あたしが思うよりも先に、涙腺がその人が誰なのかを理解した。

瞬きもできずに見開いた目から、涙があふれ、頬を伝っていく。


涙を拭くのも忘れて、その声を反芻する。

弥生、弥生、弥生……

緊張で体がうまく動かなくて、あたしはスローモーションみたいにゆっくりと、少しずつ振り向いた。


視界の端に、軍服姿の男の人。

真っ直ぐに、立ってる。

血を流してもいなくて、汚れてるけど、少なくともここまでは臭ってこない。

髪と髭が、少し伸びてるけど見覚えのある彫りの深い顔立ち――


「昇さん…っ!」
「お前、戻ったんじゃなかったのか?何しに…うわっ!」


生きてた!

生きてた生きてた生きてた!!


あたしは嬉しさのあまり犬みたいに飛び掛かって、昇さんを倒してしまった。

再会した昇さんはとても元気そうで、とても明日死んでしまうなんて思えないくらい。

あたしのみっともない心はこの際横に置いておいて、なんとしても昇さんに生き延びてもらおう、そう思った。