文字通り、いくつもの屍を超えて、あたしは歩き続けた。

途中、銃弾を受けて頭から血を流している人がいた。

近くに銃を持ったアメリカ軍がいるのかもしれないと思って、すごく怖かった。

もちろん今だって怖い。それでも進むんだ。明るいうちに、出来るだけ前へ行かなきゃ。


サルミの方角に、陽が傾いてる。
そっか。赤道より南にある島は、北を通って西に沈むんだ……。

赤くなる空にタイムリミットを感じて、ふと、思ってしまった。
俯いて、足が止まる。

昇さんの命日、つまり死んでしまった日は明日。でもそれって、明日の何時?誰かと一緒にいて、死んだの?それとも死んでしまってから、誰かが見つけた?だとしたら、もう死んでしまってる可能性だってある。

ぶんぶんと首を振る。

嫌だよ!
そんなの嫌だ!

ここまできたのに。振り払っても振り払っても、ネガティブな思考が頭から離れてくれない。

ニューギニアのことなんか調べなきゃよかった。知らなければよかった。

追い打ちをかけるように、絶望的な言葉ばかりが並ぶ画面を思い出してしまう。

ここへ来てから、死体ともう死にそうな人にしか会ってない。生きてる人はきっと、もうとっくに河を越えてどんどん先に進んでるんだ。

戦死報告書の日付が明日なら、昇さんが生きてたってさっきの人たちみたいに異臭を放って行き倒れてる頃だ。

奇跡なんか信じて、バカみたい……

あたし、何しに来たんだろう……

そもそも、なんで会えるなんて思ってたんだろう。


こんなに広くて、ただ歩くだけでも迷子になりそうなジャングルの中で人探しなんて、最初っから無理だったんだよ。


涙が、あとからあとから湧いてくる。

瞬きをするたびにぽろぽろと、地面にこぼれ落ちていく。

なんの涙?

後悔?

淋しさ?

違う。

違わないけど、情けなさかも。

それから会うのが怖い。

さっき一瞬思ってしまった自分の考えが、本音なんじゃないかって。

昇さんを見つけられない不甲斐なさ、情けなさ、それに、死を前にして垂れ流す昇さんを見たら、それまでの気持ちが嘘みたいに消えてしまうんじゃないかって。

だって。

あたしはあの人たちを見て。



気持ち悪いって、思ってしまったんだ。


まだ会えてもいない昇さんに対して、会ったらこんなふうに思ってしまうんじゃないかなんて考えてる自分が情けなくて、そんな理由で探すのを躊躇ってる自分が恥ずかしい。

こんな気持ちじゃ、会えるとしたって会えないよ……