あたしが飛んだ地点は今さっきまで空襲に遭っていたようだった。

あちこちから空に煙が昇っているのが見える。

少し歩くごとにゲニムから歩いてきたであろう人たちが斃れていた。


考えたくなかったけど、昇さんじゃないことを確かめるためにひとりひとり、顔を見て回った。


調べて、どんなところかわかっていたはずなのに、実際の現場は言葉なんかで言い尽くせるようなものじゃなかった。

最悪すぎて、気が遠くなりそう。


爆撃以前に果てたような人も少なくなくて、ウジの巣になりながら雨に打たれた頭の部分が白骨化している人もいた。

まだ、息がある人も。

目を合わすのもままならないほど衰弱して、かろうじて呼吸だけしてる、そんな人たち。

うわごとのようにお経を呟いている人や、あたしを見てサルミまで連れて行ってくれと縋ってくる人もいた。

だけどみんなもう大した腕力はなくて、あたしが軽く振り払うだけで折れ曲がるように崩れ落ちていった。


「ごめんなさい…っ!」


死んでしまった人より、生きてる人の方がものすごい異臭を放ってる。

優しくしてあげたかったけど、何日も洗っていない体臭と排泄物の臭いが混ざって、強烈すぎて無理だった。

ゲニムの前に逝ったみんなはこんなじゃなかったから、もしかしたらまだ幸せだったのかもしれないとさえ思った。


あたしは昇さんに生きていて欲しいと思いながら、嫌なことも考えてしまっていた。

もし生きていても、さっきみたいな異臭がするような状態だったら?

寒気がした。

昇さんにじゃない。
無理かもしれない、なんて考えが頭をよぎった自分にだ。


鼻から、嫌な臭いが消えない。
頭から、嫌な考えが消えない。
べっとりと、湿った枯れ葉みたいにまとわりついて消えない。


ああもう!
ここまで来て、なに考えてるんだろう。気分を替えなきゃ。リュックをおろして、中からとっておきの一品を取り出した。


「冷たい……」


移動時間的にまだいくらも経ってないから。
炭酸が喉ではじける。この時代も、ラムネとかあるよね?いかにも昭和っぽい感じするし。

冷蔵庫に2本入ってたからガラスだけど持ってきた。これを、昇さんに飲ませてあげたいんだ。未来のお菓子もたくさん持ってきた。


ラムネが冷えてるうちに、昇さんに会いたい……。