辺りは酷く焦げ臭くて、蒸れていた。


そうだ。落雷で……。
あたし、生きてる……?


湿った土が、手のひらに不快な感触を伝える。頬にはり付いた枯れ葉を肩で拭って、顔を上げる。


ここは……ゼロポイント?


違う、この臭いは、爆撃の……。
間違いない。戦場の臭いだ。

来れた、来れたんだ!


指の横を、ブローチみたいなメタリックの昆虫がのそのそと通り過ぎた。見上げれば、空に向かって高くそびえる樹々。鬱蒼と葉が茂って、あちこちにツタが絡んだ深い森。

遠くで、フルートみたいに透き通った涼しげな鳥の声がする。南の島ならどこも同じかもしれないけど、きっと。


信じよう。
自分を。

信じるしかない。
奇跡を。


立ち上がり、軍服の脚についた泥を払って、あたしは3度目の大地を踏みしめた。


***


飛んできた地点が140度ちょうど。

地図で確かめた距離は真横に直線で30~40㎞くらいのところだった。

目標のサルミはゲニムから北西のほうにあるから、その方角を目指す。

磁石が合っていれば、この方向でいいはず。


問題は……

昇さんが元気なら、もうかなり先まで歩いて行ってしまっていそうだということと、サルミまでは惨劇のトル川以外にもその手前に4本、大きめの河があるということ。

そろそろ雨季が終わる時期みたいだけど、この湿りようをみるとまだまだ油断できない。

あたしひとりで渡河ができるのかということ……。
浮き輪も持って来るべきだったな。


玲奈と去年の夏に、インスタ映えとか言って色違いで買ったドーナツ柄の浮き輪が頭に浮かんだ。

インスタ、やってないけど。

映えもクソもない濁流の中で坊主頭のあたしがドーナツに掴まってプカプカ浮かぶのを想像してしまった。

そんなのよりもっと、船についてるみたいな、岩に当たっても破けない実用的なやつが欲しいよ。


そんなこと考えたってしかたない。
あるもので行くしかないんだし。

……あたしの手には地図と磁石がある。
だけど現在位置の目印になるものがない。

だから奇跡を信じて進むしかない。


どうか昇さんに、会わせて……!