ゼロポイントは観光スポットなんていっても、実際に来てみたらただの広場というか公園だった。

公園と言っても、遊具とかがあるようなのじゃなく、ちょっと犬の散歩でもしようか、みたいな。


標識のところまで来たら、人がいた。
なんか嫌だな、観光なら仕方ないけど、なんて思ったら晶だった。
鬼みたいな顔して立ってる。

ごめん、晶。
晶が昇さんの生まれ変わりなんていわれても、ピンとこないんだよ。

あたしが今、大好きで大好きでしかたないのは、昭和19年にいる、昇さんなんだよ。



「行くな!」
「来ないで!」



叫ぶみたいな晶の声に、気持ちが揺らいだ。


『町田、やよが意識戻るまでの間ね、ずっと言ってたんだよ。こいつがこんな目に遭ってるのは俺のせいなんだ、って』


玲奈が言ってたあれは、もっと早く生まれ変わりを言い出していればってことだよね。

潮干狩りで遠くに行くなって言ったのも、あそこでタイムスリップすることがわかっていたから。


「弥生!」


あ……。
晶の顔、まるで渡河に失敗したときの昇さんみたいな思い詰めた表情。
一瞬だけ、晶と昇さんが重なって見えた。


もうこっちには戻らないって決めたのに、そんな顔されたら……。


「俺、さっき言いそびれたこと言いに来た!」
「え?」
「だから行くな!」


言いそびれたこと?


「俺は……っ――」


ピシャーーーーーッ!!


物凄い閃光と、まるで爆弾が落ちたみたいな音と地響き。
すぐ側の標識に落雷したんだ。

激しい雨なのに、標識が燃え盛っていた。
その雨の飛沫と、炎と、煙で、晶が見えなくなる。
バチバチと焼ける音で、声も聞こえなくなった。

蒸し暑い……。


「ゴホッ」


あたしは煙を吸い込んでしまって、意識が遠のくのを感じた。

ああ。
火事は煙を吸って倒れるのが一番の死因だってテレビでやってたな。

だけどきっと、ここでまた奇跡がおきたら。
彼のところへ行ける…

お願い!
もう一度、もう一回だけでいいから。

昇さんのところへ!


遠のく意識の中、あたしはただ、それだけを強く願った。