非常用持ち出しリュックに限界まで食べ物や飲み物を詰めて、あたしはチャリで駅まで飛ばした。
ここからはタクシーだ。
「ゼロポイントまで!急いでください!」
汚れた軍服に身を包んだあたしを、運転手さんが嫌そうな目でチラ見したのがわかった。
乗車拒否されるかと思ったけど、大丈夫だった。
「サバゲー、ってやつですか?」
「ああ、まあ……」
「本物の軍人みたいですね」
「あは、は」
本物の軍人じゃないけど、本物の軍服ですよ……。
弾まない会話が止み、景色は徐々に山道になっていく。
行ったからって、どうなるものじゃないかもしれないけど。
また過去に行けるなんて確信してるわけじゃないし、行けるとしたってあの時代に行けるとも限らない。
経線上の、どこに飛ぶかだって定かじゃない。
飛んだら全然違う場所の違う時代で、もっと最悪な事態に巻き込まれて、もう戻ってこれないかもしれない。
それでも。
行ける可能性がゼロじゃないなら。
昇さんに会えるなら。
助けられるかもしれない。
ううん!
助けなきゃ!
それに、まだ伝えてない。
あなたが好きですって、言ってない。
伝えたい。
そして。
令和の日本を見たいって言ってた昇さんと、一緒に生きたい。
だってあと1年ちょっとで戦争は終わるんだから。
そこまでなんとか生き延びれば、あとは戦後のどさくさであたしもあの時代の人間になって、東京オリンピック見て、一緒に歳をとるんだ。
晶は生まれ変わりだって言ったけど、あたしは。あの時代で、あの昇さんと。
生きたい!
「雨、降ってきましたねぇ。今日は雷雨らしいですよ」
運転手さんがまた声を掛けてきたけど、それに返事をする余裕はなくて。
徐々に波打ちだす窓ガラスを見つめて、早く、早くと心の中で車を急かしていた。