「古賀さん、点滴交換しますねぇ~……っきゃあ!!」


シャー、とカーテンが開いて、看護師さんがやってきた。

と同時に幽霊でも見たのってくらいに叫ばれた。

ここ、病院だよね?

お静かに?


「え?えっ?意識、戻ったんですか!?って、気がつかれてから勝手にどこか行ったんですか!?」
「え?いえ、まだ…どこにも…」
「だって、その恰好…っ、しかもそんなに汚れて、おまけにその頭…っ!病院なのに困ります!」


そう言われて、自分の指が泥汚れで真っ黒なのに改めて気づかされた。

そういえば確かに、さっき点滴のチュープを見た時は、違和感があった。

汚れた腕に点滴針を刺すはずがないのに。

だけど自分が薄汚れていることを、あたしの脳はごく自然に受け入れてた。

だからその違和感をスルーしてしまっていたんだ。


あたしの腕に軍服らしき袖。

看護師さんの驚き具合からして、間違いなく着てる。

つまり、あたしがタイムスリップしてたのが夢じゃないってことだよね?

初回に砂を付けて戻ったのと同じで、あたしは身に着けたものそのままで戻ってきたんだ!


夢じゃなかった!

それだけで、胸が高鳴る。

行っていたんだ、あたし。

確かに、あの時代の、あの場所に。

思い出したくないような出来事ばかりだけど、ただひとつ。


昇さんと過ごした時間が夢じゃなかった、ただそのことが。

本当に本当に嬉しい。


「先生呼んできます!」
「あっ、待って!今日、何月何日ですか!?」
「5月7日ですよ、2週間近く眠ってたんですよ、古賀さん」


……あってる。

と思う。

防水のはずのスマホが渡河のせいか充電切れか、ずっと正確な日付の確認をしてなかったけど、毎朝昇さんと日付を確認しながら進んだから、たぶんあってる。

やっぱり同じだ。

時間の進み方が同じ。

このあと、あの島で日本軍がどうなるか、調べなきゃ!

日本は負ける、それはもう誰もが知ってる事実で。

だけどあの島の事をあたしは何も知らない。

知らなきゃ!


まもなくやってきた先生にも驚かれ、看護師さんたちに体を拭いてもらった。

その時、鏡で見せてもらった顔は浅黒く日焼けしていて、髪も不揃いなあの坊主頭。

なぜこんなことになっているのかをかなりしつこく聞かれたけど、わかりませんの1点張りで通した。

だけど自分のこの姿を水鏡以外でみたのは初めてだったから、予想以上に男前で笑ってしまって、かなり怪しまれてしまってると思う。

でも本当の事を話したって、大人はきっと信じない。

結局、不審者の侵入の可能性、なんて言って、警察沙汰になってしまって、ちょっと面倒くさかったし、病院には申し訳ないなと思った。


だけど着ていた軍服を証拠品として警察が持っていってしまって、すごく焦ってる。

あの軍服自体は名前もわからない人のだけど、刀とポケットの中見は、向井さんと山根さんの形見なんだ。

それに、昇さんのフィルムも入ってる。

何とかして返してもらわなきゃ……