次の日、あたしたちは朝日を浴びて目覚めた。

晴れた朝は久しぶりだ。


「阿久津は……太陽みたいなやつだったな」
「そうだね」


本当に、太陽みたいだった。


太陽が、西に向かうあたしたちの背中を押すみたいに後ろから照らす。

阿久津さんがもう少しだ、頑張れって言ってくれてるのかも。

くよくよしてられない。


足に力を込めて、一歩ずつ。

ゲニムは、すぐそこだ。



***



盆地のような少し開けた場所が見えた時、昇さんが立ち止まった。


「昇さん、もしかしてここ……」
「ああ、おそらくな」
「着いたんだ!やったぁ」
「まだだ。このまま森で少し待機だ」
「どうして?すぐそこなのに」


ここへきて慎重な昇さんに、あたしは尋ねた。

いますぐにでも走っていきたいのに。


「あそこには将校はじめ他の兵たちも多くいるだろう。お前が女だとバレたら俺も終わりだ。いっそ軍服は捨てて正直に理由を話すか…」
「頭の固そうなオジサンたちがタイムスリップなんて信じると思う?なんとかどさくさに紛れて出発まで過ごせればいいんでしょ?そのあとは少し離れて行動すればいいよ」
「うーむ」


昇さんが決めかねて、腕を組む。

仕方がないのであたしもその場で座って、休憩だと思うことにした。


「おい、貴様ら」


ビクン!

腕組みしてぶつぶつ言っている横顔を何気なく眺めていたら、後ろから声を掛けられた。


「はっ、報告いたします!第18軍所属、輜重第41連隊、町田昇、以下2名。ホルランジヤより転進、只今ゲニムに到着いたしました!」
「よし。報告は本部前だ。…よく生きてここまで来たな、向こうまで行けば粥もあるぞ」
「はっ!ありがとうございます!」


昇さんが即座に声を張って機敏に答えたおかげで、あたしのことはチラっと見られただけで済んだ。


「今の、偉い人なの?」
「階級章は伍長だったな。俺よりは上だ」
「そうなんだ」
「お前が座ったままで肝が冷えたよ、この状況下だから腹が減って立てないとでも思われたんだろう」
「あはは…ごめんなさい」


あのチラ見はそういう意味だったんだ…危なかったぁ。


「さあ、粥を食いに行こう」
「うん。あ、そういえばさっき町……」


昇さんがさっき自分のことを「町田」と言った気がして、訊こうとした時だった。

話しかけながら立ち上がった途端、ぐらりと視界が揺れた。

あ!

この感じ、ダメ…っ!

今はダメ!昇さんにまだ何にも言ってな…………――