魚の日以来の満腹に、あたしたちは満ち足りていた。
雨はまだ降り続いていて、河は渦を巻くようにうねり、唸っていた。
それでも今までにない勇気が湧いてくる。
食べ物の力は偉大だ。
そう、思った。
「頑張ろうね!」
「おう!」
「……」
「何だ松田、腹でも壊したが?」
ただひとり、昇さんだけは違った。
「もう1日、待たないか」
ああ、大丈夫かと思ったけど、やっぱり前のことを引きずってるんだな、と思った。
確かに天気は悪いけど、昨日よりは明るいし、雷もない。
何より今はたくさん食べたから体力がある。
明日また昨日みたいにゴロゴロ来たら、ゲニムでの合流の機会を逃してしまうかもしれない。
そうしたらまた物資の補給がないまま、今度は200㎞以上も歩き続けなきゃならない。
この3人のまま。
3人じゃ、助け合うにも限界がある。
やっぱりここは今だ、そう思った。
「松田、俺らは死なねえよ?行ぐべ」
「うん、流れは速いけど浅そうだし」
「……わかった。注意していこう」
阿久津さんも同じく思ってたみたい。
岩がゴツゴツしているから、そこを掴みながら進めば行ける、そんな強い気持ちで水に足を浸した。
思った通り、水深は浅かった。
あたしでも腰までないくらい。
だけど、思ったよりも流れを体に受けて、体を支えるのがやっとだった。
「弥生、進めるか?」
「う…、ん、頑張る…っ」
「慎重になぁ!」
なんとか中ほどまで進んだあたりに中州みたいなところがあった。
「そこで一旦休もう」
昇さんの指示で中州に上がったあたしたちは、激流の中でしばしの休息をとることにした。
体がガチガチにこわばって、すごい筋肉痛の前触れみたいになってる。
だけど前の渡河でも同じ感じで、筋肉痛にはならなかった。
栄養が足らなくて、痛む筋肉もないのかも。
「あど5mってとこが」
「そうだな」
「あんまり休むと却って疲労が溜まる。そろそろ行くぞ」
「うん」
そこから先は、あまりよく覚えていない……
あたしの目の前で立ち上がった阿久津さんが、一瞬で視界から消えた。
え、と思って下を向いたら、頭から血を流して流されそうになってる阿久津さんがいた。
昇さんが叫びながら手を出していたような気がする。
だけどその全部がスローモーションみたいな景色の中、阿久津さんが赤いリボンみたいな血の帯を引きながら遠ざかって行く。
モノトーンの中に鮮血だけが赤くて、あたしはゆらゆら揺蕩うその帯を見つめてた。
赤い帯は見る見るうちに流れに消されて、見えなくなった。
「阿久津さん!!」
叫んだときは、もう阿久津さんの姿は見えなくなっていた。
雨はまだ降り続いていて、河は渦を巻くようにうねり、唸っていた。
それでも今までにない勇気が湧いてくる。
食べ物の力は偉大だ。
そう、思った。
「頑張ろうね!」
「おう!」
「……」
「何だ松田、腹でも壊したが?」
ただひとり、昇さんだけは違った。
「もう1日、待たないか」
ああ、大丈夫かと思ったけど、やっぱり前のことを引きずってるんだな、と思った。
確かに天気は悪いけど、昨日よりは明るいし、雷もない。
何より今はたくさん食べたから体力がある。
明日また昨日みたいにゴロゴロ来たら、ゲニムでの合流の機会を逃してしまうかもしれない。
そうしたらまた物資の補給がないまま、今度は200㎞以上も歩き続けなきゃならない。
この3人のまま。
3人じゃ、助け合うにも限界がある。
やっぱりここは今だ、そう思った。
「松田、俺らは死なねえよ?行ぐべ」
「うん、流れは速いけど浅そうだし」
「……わかった。注意していこう」
阿久津さんも同じく思ってたみたい。
岩がゴツゴツしているから、そこを掴みながら進めば行ける、そんな強い気持ちで水に足を浸した。
思った通り、水深は浅かった。
あたしでも腰までないくらい。
だけど、思ったよりも流れを体に受けて、体を支えるのがやっとだった。
「弥生、進めるか?」
「う…、ん、頑張る…っ」
「慎重になぁ!」
なんとか中ほどまで進んだあたりに中州みたいなところがあった。
「そこで一旦休もう」
昇さんの指示で中州に上がったあたしたちは、激流の中でしばしの休息をとることにした。
体がガチガチにこわばって、すごい筋肉痛の前触れみたいになってる。
だけど前の渡河でも同じ感じで、筋肉痛にはならなかった。
栄養が足らなくて、痛む筋肉もないのかも。
「あど5mってとこが」
「そうだな」
「あんまり休むと却って疲労が溜まる。そろそろ行くぞ」
「うん」
そこから先は、あまりよく覚えていない……
あたしの目の前で立ち上がった阿久津さんが、一瞬で視界から消えた。
え、と思って下を向いたら、頭から血を流して流されそうになってる阿久津さんがいた。
昇さんが叫びながら手を出していたような気がする。
だけどその全部がスローモーションみたいな景色の中、阿久津さんが赤いリボンみたいな血の帯を引きながら遠ざかって行く。
モノトーンの中に鮮血だけが赤くて、あたしはゆらゆら揺蕩うその帯を見つめてた。
赤い帯は見る見るうちに流れに消されて、見えなくなった。
「阿久津さん!!」
叫んだときは、もう阿久津さんの姿は見えなくなっていた。