「山根えぇ~!!」
「あっ、おい!」


え!?

なんでふたりが!?


突然、茂みの向こうから阿久津さんが泣きながら飛び出してきて、それを止めるように身を乗り出していたのは、昇さんだった。


「弥生ぢゃん、こいづの最期、看取っでくれであんがとなぁ」
「昇さん、それに阿久津さん、先に行ったんじゃ…?」
「山根があの様子じゃ、お前が独りになって野垂れ死ぬだけだろう。お前に死なれては夢見が悪いからな」


昇さんが笑った。

笑ってくれた…!


「あまのじゃくも大概になぁ、昇さん?」
「よしてくれ、そんなんじゃない」


昇さんに会いたいって思ったら、本当に会えた!


「ふえぇ…っ」
「弥生ぢゃん?」


何も感じなくなってしまったように動くことのなかった感情が、一気に極限まで振れたのがわかった。

昇さんに会えた嬉しさと、ここで合いの手を入れてくるはずの山根さんや向井さんがいない淋しさがごちゃごちゃに入り混じって、溢れかえる。

なかなか泣き止まないあたしを、阿久津さんが必死になだめてくれた。

昇さんは、山根さんの身の回りを整理しだしたようだった。

整理といったって手ぶらみたいなものだから、あるのは向井さんの形見くらい。


「これは、俺が持づ。弥生ぢゃんは向井のを持っでくれ」
「うん」


阿久津さんがそこへ寄っていって、昇さんから山根さんの刀を受け取って言った。

あたしに渡されたのは、向井さんの短刀。

この刀、そうか。

昇さんのと同じだ。

阿久津さんと山根さんのは、日本刀って感じで長くて、これは長めの包丁くらい。

これならあたしでも持てる。


「できるだけ多く持ち帰ってやりたいし着替えとしても重宝すると思うが…」
「本当は骨を持っで帰ってやりでえけどなぁ」


向井さんの時は装備品を4人で持てたけど、ここからは3人だ。

あたしはボタン、阿久津さんは刀と天幕、それから、昇さんは靴紐をほどいて持った。


山根さんの眠る土に手を合わせたあと、あたしたちは日没まで進むことにした。


「これでお前もいっぱしの軍人だなあ、生男」
「弥生です!」
「ははは、こりゃいい夫婦漫才だ」
「めお…っ!」
「男同士だぞ、夫婦なもんか」


重たい空気を払うように、昇さんが刀を持ったあたしをひやかした。

それを阿久津さんが斜め上に膨らまして少し焦ったけど…

ああ、5人でいたときに戻ったみたいって、思った。

森の奥から、ふたりが笑う声が聞こえたような気がした。