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仲直りの機会は、望まない形で訪れた――




山根さんがここのところずっと熱っぽい。

この感じはマラリアじゃないかって、昇さんと阿久津さんで話しているのを聞いた。


「なあ山根…お前、もしかしで……」
「ただのカゼだよ、心配すんなって」
「ならいいげどよ、無理すんなよ」
「あいあい」


時々、こめかみを押さえて眉間にしわを寄せていたり、ハアハアと呼吸が小刻みで荒い。

ただのカゼだとしたって、栄養状態だって最悪な今の体は、こじらせて肺炎にでもなったらきっと簡単に死へ向かってしまう。

心配だけど、休息をとる余裕もなければ薬はおろか、満足な食事だってない。

してあげられることが、全然ない。

ここに来てすぐ、この軍服をもらった人が倒れていたのを見た時、あたしは助けなきゃ、って思った。

実際にはもう亡くなってしまったあとだったんだけど。

それで助けようとしない昇さんに、酷いこと言ってしまった。


今は、あのときの昇さんの気持ちが、少しはわかる。

どうにかしてあげたくても、限界があるんだ。

というか、何もしてあげられることが、ない。

本当にないの。


人間って、こんなに無力なんだって、つくづく思い知った。

道具がなきゃ、ジャングルの中では虫以下の生物なんだ。

だけど逆に熱を出したって中毒になったって、治るときは治る。

そんな強さも持ってる。

だから体調を崩したら自分でなんとかふんばるしかないんだ。


でも…

向井さんは回復出来なかった。

あたしたちはお腹を下しても大丈夫だった。

この違いは何?

元々の体力?

悪いものを食べた量?

それもあるかもしれない。

けどきっと、本当にちょっとした、運みたいなものなんじゃないかと思う。

あと数m爆撃がずれていたら、あたしはここに来たあの瞬間に死んでいたかもしれない。

あと数㎝川の幅が広かったら、あたしもあの川で死んでいたかもしれない。


かもしれないの連続をかわして、今あたしは生きてる。

これから先もきっとそう。

運任せ。


出来ることは、水も食べ物も必ず火を通す、ケガをしたらとにかく洗う、そんなことくらい。

山根さんがこのまま自力で解熱してくれるのを、あたしたちはただ、待つだけだ。