「弥生!」
「昇さん、山根さんは?みんなは?」
「一応皆無事だよ」
「よかった!」


山根さんは、あたしが思っていたよりもずっと川上まで流されていた。

向井さんを背負った阿久津さんのスピードでは追いつけなくて、川岸を走っていった昇さんが救助したようだった。

怖かったけど、不安だったけど、みんな無事で本当に良かった。


だけど、この流れの中を追いかけたことで、特に向井さんが水を大量に飲んでしまったみたいで。

みんなのところに着いたら、山根さんだけじゃなく向井さんまでもが横に寝かされていた。


「米が……すまねえ、すまねえ…」
「お前が生ぎてりゃそれでいいんだって言っでるんだけんども、さっきがらずっとこんなだ」


山根さんは荷を守れなかったことをかなり気にしているみたい。

そうだよね、あたしも湖で襲撃されたときはカニ置いてきちゃって、すごく凹んだもん。


「山根さん、よかった…っ。本当によかった」
「弥生ちゃん…」
「山根さんのせいじゃないよ、あたしが身長低くて昇さんにおぶさったりしたせいなんだから」
「だけどよぉ…」
「山根、判断を誤ったのは俺だ。すまん」
「誰も悪ぐねえよ、さ、ここは危ねえから、行くぞ」


阿久津さんの言う通りだよ。

誰も悪くない。

いつまでも見通しの利く場所にいるのは雨だからって危険だ。

今度は昇さんが向井さんを、阿久津さんが山根さんを背負って、あたしたちは再び深い森に紛れ込んだ。