大粒の雨がとめどなく降り、水面を打つ音と濁流のうねるような轟音が響く。

昇さんが低い声でゆっくりと語り始めた。


「古賀は…………記憶喪失でも、生男でもないんだ」
「はぁ?何だそれ」
「あ?」
「どういうことすか?」


途端、3人の顔から笑いが消えた。

当然だよね。

あたしたちが嘘をついてたってことなんだから。


「……女なんだ。古賀、弥生という」
「お、女ぁ!?」


阿久津さんが、目を白黒させてあたしを見る。

山根さんと向井さんは驚きのあまりぽかんとしていた。

昇さんが続ける。


「こいつは、何故だか理由はわからないが、2020年の未来から飛ばされてきたんだ」
「ちょっど待っでくれよ松田ぁ!んな話信じられん」
「嘘だろおい…」
「嘘じゃない。俺も最初は信じられなかったが本当の事だ」
「証拠は?そんな馬鹿みでえな話、証拠もなしに信じられっが」


阿久津さんが掴みかかりそうな勢いで昇さんに詰め寄る。

スマホ!スマホ見せれば!


「証拠ならっ」
「わあっ!なんだその高い声!」
「おお……本当に女すね…」


作ってた生男の低い声じゃなくて地声で喋ったあたしに、山根さんと向井さんが尻もちをついた。

女だって分かるって、そんな驚くかな?

驚く、よね。

前に昇さんが言ってたのは看護師さんとか、あとはタイプライターみたいな技術系の人には女の人がいるって。


「おお、おおお……おおう……」
「どうした阿久津」
「だって、だってよ?女って、女ってよぉ…」


何故か阿久津さんが嗚咽を漏らして泣いている。

えっ?

久々に女の人見て、それで泣いてるの?

いくらなんでもそれは感極まりすぎじゃ…


「だって松田、こんな汚ぐで、なんもねぐで恐ろしい所、女っごが来っとこじゃねぇぞ、それを文句も言わず俺らの後くっづいて歩ってきでんだもんよ、大したもんじゃねえがぁ…おおっうおおっ……」


阿久津さんは、想像したのと全然違う理由で泣いていた。

変なふうに考えた自分が恥ずかしい。

だけど、山根さんと向井さんは、顔を見合わせて黙りこんでいた。

意を決したように、山根さんが口を開く。


「悪いけど、俺は認めたくねえな」
「山根……」


向井さんも静かに頷いた。

あたし、嫌われてしまったみたいだ。