140度の彼方で、きみとあの日 見上げた星空

大粒の雨がとめどなく降り、水面を打つ音と濁流のうねるような轟音が響く。

昇さんが低い声でゆっくりと語り始めた。


「古賀は…………記憶喪失でも、生男でもないんだ」
「はぁ?何だそれ」
「あ?」
「どういうことすか?」


途端、3人の顔から笑いが消えた。

当然だよね。

あたしたちが嘘をついてたってことなんだから。


「……女なんだ。古賀、弥生という」
「お、女ぁ!?」


阿久津さんが、目を白黒させてあたしを見る。

山根さんと向井さんは驚きのあまりぽかんとしていた。

昇さんが続ける。


「こいつは、何故だか理由はわからないが、2020年の未来から飛ばされてきたんだ」
「ちょっど待っでくれよ松田ぁ!んな話信じられん」
「嘘だろおい…」
「嘘じゃない。俺も最初は信じられなかったが本当の事だ」
「証拠は?そんな馬鹿みでえな話、証拠もなしに信じられっが」


阿久津さんが掴みかかりそうな勢いで昇さんに詰め寄る。

スマホ!スマホ見せれば!


「証拠ならっ」
「わあっ!なんだその高い声!」
「おお……本当に女すね…」


作ってた生男の低い声じゃなくて地声で喋ったあたしに、山根さんと向井さんが尻もちをついた。

女だって分かるって、そんな驚くかな?

驚く、よね。

前に昇さんが言ってたのは看護師さんとか、あとはタイプライターみたいな技術系の人には女の人がいるって。


「おお、おおお……おおう……」
「どうした阿久津」
「だって、だってよ?女って、女ってよぉ…」


何故か阿久津さんが嗚咽を漏らして泣いている。

えっ?

久々に女の人見て、それで泣いてるの?

いくらなんでもそれは感極まりすぎじゃ…


「だって松田、こんな汚ぐで、なんもねぐで恐ろしい所、女っごが来っとこじゃねぇぞ、それを文句も言わず俺らの後くっづいて歩ってきでんだもんよ、大したもんじゃねえがぁ…おおっうおおっ……」


阿久津さんは、想像したのと全然違う理由で泣いていた。

変なふうに考えた自分が恥ずかしい。

だけど、山根さんと向井さんは、顔を見合わせて黙りこんでいた。

意を決したように、山根さんが口を開く。


「悪いけど、俺は認めたくねえな」
「山根……」


向井さんも静かに頷いた。

あたし、嫌われてしまったみたいだ。