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雨が降り止まない。

足元がぬかるんで、靴が沈んで重い。

蒸し暑さはあるのに、服が濡れているから体は冷えまくる。

天幕をレインコートがわりに使うけど、全身を覆えるわけじゃないから。

あたしも途中で亡くなってしまった人の背嚢をお借りして、その天幕や毛布を使わせてもらってる。

食べ物は入ってなかったけど、毛布と携帯天幕はありがたい。

それまでは昇さんが貸してくれていたから、今は昇さんも濡れなくなってホッとしてるんだけど、それでも男の人たちは体が大きいからあたしよりも濡れてしまう。

向井さんはお腹の調子が治らないままこの雨に晒されて、日に日に悪くなってる気がする。

それでも向井さんは食べることが大好きで、いつも食べ物の話をする。


「ああ…また魚、食いてえっすね…」
「コイヅ、散々クソまみれになっでもまだ食い足らねえとよ!」
「まあ向井から食い意地とったらなんも残らねえからなぁ」
「よーし、爆弾乞いでもするか」
「んだな!っそれ、ばーくだん降れ降れ大漁だぁ~明っ日も魚が食いてぇなぁ~、あそーれ!ぴっちぴっちじゃっぶじゃっぶらんらんらんっとぉ!」


阿久津さんが童謡の替え歌を即興で歌いだした。


「おいおい、いつ敵が嗅ぎつけるかわからないんだぞ」
「なんの!このまま逃げ隠れるより俺は戦って死にたいぞ!」
「同じく!」
「そっすね」


変なハイテンションになってみんなで合唱。

爆弾が落ちたらいいなんて誰も本気で思ってるわけはないけど、あのタナボタな光景は空腹で歩き続けるあたしたちにとって、本当にそれくらい魅力的なものだった。

あの日、湖に戻ったら湖岸に信じられないくらいの魚が浮いてた。

昇さんの言ったとおりだった。

半日かけて小さなカニやエビしか獲れなかった湖なのに、たった数分の爆発でこんなにも魚が、って、悔しさすらこみ上げた。

それをかき集めて、食べて。

結果、お腹は壊したけど、食べてるときは最高の気分だった。

少し大げさだけど……明日死ぬとしても、また食べたいと思うほどに。


だけどその晩、向井さんは大好きな食事の時間にも草陰で呻き続けて、あんまり遅いと心配した山根さんが様子を見に行くと、その場で気を失っていた。