朝になって、あたしたちは敵の目を警戒しながら湖岸を目指した。

開けた道は歩くのが楽だけど、いつ敵が襲ってきてもおかしくない。

人が生活してる集落らしき建物も見える。

だけど昇さん曰く、原住民は敵側についていることも少なくないから、迂闊に近寄ってはダメらしい。


会話もしないで、息を殺すようにして歩く。

食糧調達がこんなに命がけとか、元の時代じゃ考えられない。

だけど、魚じゃなくてもいい、とにかく何か水産物を獲らなくちゃ。

毎日朝から日が暮れるまで、沼地や山道をへとへとになりながら歩いてるのに、普段だらだら暮らしてた時の1食分にもならないんだもん。

特にたんぱく質が圧倒的に不足してる。

ダイエットもバランスが大事、特にたんぱく質は抜いちゃダメっていろんな雑誌やネットで読んだ。

湖って、貝、いるかな…

あたしはここへ来る直前に持っていたはずの草とり鎌を思い出して、あれがあったらなぁとため息をつく。


「ぬかるんで沈んだり急に深くなったりするから陸の近くだけにするんだぞ」
「うん」

靴や服が泥だらけになるのも構わずに、湖の中に足をすすめる。

もともとこのままの恰好で河にも入ったし、泥だらけだからね。


道具もないので昇さんから借りた飯盒の蓋で水底をさらう。

貝!出てこい、貝!

さらっては湖岸に泥を捨て、手の平で広げて何かないか探るけど、1時間くらいかけて獲れたのは、小さなカニとエビだかザリガニだかよくわからない生き物が合わせて9匹。

とてもふたりでお腹いっぱいって量じゃない。

むしろ、腰を曲げて泥さらいをしたぶんの消費カロリーのほうが深刻だと思う。

こういうの徒労っていうんだろうな…


「よくやったな!量はともかく、良いダシになるぞ」
「昇さん…ありがとう」
「なに、礼をいうのはこっちだ。レイワ育ちもなかなかのもんだ」


昇さんは、褒め上手だ。

あたしがいなかったら、もうとっくに他のみんなと合流してもっと先に進んでいるはずなのに、文句も言わない。

もたもた歩くあたしを気遣ってたくさん休憩をしてくれたり、早めに1日を終わりにしてくれる。

それで休憩のときやテントを張るときには必ず決まってこう言うの。

『お疲れさん、よく頑張ってるな』

って。

頭をポンポンしながら。


あたしはそのたびに申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、よし、また頑張るぞ、って思えるの。


食糧探しがこんなにショボい結果に終わっても、こうやってねぎらってくれる。


優しくて、強いんだなって、思う。