「いってきます」
「いってらっしゃーい。気を付けてね」
「わかってるってば」


 玄関を出て、自転車のカゴにバッグを放り込み、走り出す。ハンドルにぶら下がるヘルメットが邪魔でしょうがない。校則だから、邪魔だけど被らなきゃ校門をくぐれないの。真面目かよ! っていうね。

 うちから学校までは自転車で30分くらいかかる。雨の日は車で送ってもらうけど、基本チャリ通。電車通学とか憧れる。だってコレじゃ他の学校の生徒に片思いも出来ない。誰かとすれ違ったって、顔見る間もなく通り過ぎちゃうから。

 それに……出会いのない理由はもうひとつある。あの角を曲がれば、ほら。


「弥生おはよ」
「あーおはよー」
「じゃいってきま……あ! じいちゃん、やんなって!」
「んだって、やんねば草ばーっしの庭になって、お客さん来た時に恥ずかしかんべぇ」
「除草剤撒いてっからダメって、毎日親父に言われてるでしょ、もー」


 毎朝いちばん最初に顔を合わせる同級生、幼なじみの晶だ。自転車を出しながら、庭先で草むしりをするおじいちゃんを止めている。おじいちゃん、全然やめる気なさそうだけど。

 晶、背は高い。顔もまあ、奥二重の細目だけど、鼻筋は通ってるからそこそこかな。男子にしては少し長めの髪は生まれつき少し栗毛がかっていて、斜め後ろから見てる分には、イケメンだ。だけど、小説とかマンガでよくある感じの、幼なじみモノみたいな甘酸っぱい感情はゼロ。むしろマイナス方面。理由は、オタクだから。

 写真オタク、っていうの? んー、昆虫写真オタクかな。前なんか、南国のナントカって国のメタリックな虫の写真なんか見せてきて、『これ、食えるんだってさ』なんて言ってきた。中学上がる前だったか後だったか……それで家に遊びに行くのやめたんだ。

 なのにそんなオタクのくせにモテるから、なんかムカツク。もっと小さい頃は葉月も一緒に遊んでたんだけど、晶がカメラにハマりだしてから、つまらなくなった。気を抜いてる時に限って勝手に撮るし、ひとりでどこか撮りに出かけちゃうし。カメラの何が面白いのか、ぜんぜんわからない。スマホカメラで充分じゃない? しかも撮ってるの虫だし、基本。

 なのになぜか、あたしの緩ショットを狙う。あたしは虫じゃないんですけど? 虫と同レベルってこと? 考えたら余計にムカついてきた。


「待ってよ弥生! はぁー、まじこの頃のじいちゃんやばいんだよ。5分前に言ったこと覚えてないんだぜ。つかテスト勉強やった? 俺昨日やろうと思ったらいつの間にか寝ててさぁ」


 こんなのと一緒に通ってたら、そりゃ防犯的にはいいのかもしれないけど。出会いなんかあるわけないっていうね。あたしはスピードをあげて、合流してから少し前を走る晶の自転車を追い越した。

「あ! 飛ばすんならメットしろよー」
「うっさい!」

 いつも親みたいなこと言うから、やっぱりウザい!