……

足がムズムズする…

腕もこそばゆい…


ほとんど無意識にその場所を手で払って、最初は気のせいだと思ってた。

でもやっぱり違和感は拭えなくて。

ついには、それが顔の上で起きた時、肌を伝う感覚と払った手に答えを確信してしまった。


「きゃぁっ!」
「どうした?」


あたしの声で昇さんがガバっと起きて、険しい顔を向ける。


「む、虫が体の上に…顔にも来て、無理無理無理」
「なんだ、虫か。マラリアや刺されると腫れるのもいるがもう諦めろ」
「無理!キモい!寝らんない…」


見るのも嫌というほどではないし、家でだって虫が出ても一番騒ぐのはお母さんだ。

だけど顔に来るとかは絶対無理!


「仕方ないな…おいで」
「えっ…」


ふわり。

両脇を抱えられたと思ったら、その瞬間、あたしはゴロリと仰向けになった昇さんに被さるように乗っけられてしまった。

待って、ほんと待って。

こんなの、無理!

虫も無理だけどコレも無理!

心臓が爆発しそうだよ!

恥ずかしすぎて死んじゃう…


「これなら平気だろ」
「えっ、でも」
「じゃあ降りて寝るか?」


顔、超近いよ。

そんな優しい顔しないで。

ドキドキが、身体じゅうを駆け巡って、熱い。


あたしが今めちゃめちゃドキドキしてること、絶対バレてる。

だってあたしと昇さん、ぴったりくっついてるんだもん。

あたしは精一杯の平静を装って、やっとの言葉を口にした。


「むっ、虫は嫌!でも、あたし重いよ…」
「気にするな、重いくらいのほうが上等な木綿の掛布団みたいでいいさ」
「くっ、また失礼なことをぉ…」
「ははは」


昇さん、絶対あたしで遊んでる…っ!

あたしがこんなに意識してるのに、昇さんは平気な顔。

大人ってずるいよ。


「明日も早いぞ。おやすみ」


そうやって、頭をポンポン。

完全に子供扱いだ。


昇さんの大きな手が、あたしの坊主頭を撫でてる。

まるで子守唄でも歌ってるみたいに。


胸についた耳に、昇さんの鼓動がきこえる。

優しくて、落ち着いた音だ。

だけどあたしは落ち着くどころじゃなくて、ぜんぜん眠れない。


あたしばっかり、どんどん好きになってくよ…