カメラは、ホルランヂヤでお世話になった人のものらしい。

一緒にいたところで戦闘機に攻撃されて亡くなってしまったそう。


「撮ってばかりだからと、俺が無理やりカメラを取り上げて撮った笑顔が最期になった」


それから昇さんは目頭を押さえて、しばらく黙ったまま俯いていた。

それって昇さんの目の前で、ってことだよね…

辛すぎる…


「このカメラは軍の記録用だけど、俺は仲間たちの写真をたくさん撮って帰りたいと思ったんだ。縁起でもないが、写真1枚残さず死んでいくなんてそのほうがよっぽど酷い話だろ。生きてりゃ、あんときは苦労したなと酒の肴になるんだから」


そう言って、ニカっと子供みたいに笑った。


「そうだね、写真って、あとで見るとすごく楽しいよね」
「だろ?」
「あたしも撮ってよ?」
「もう、全部撮り終わってるんだ。すまんな。海でお前を撮ったのが最後だったと思う」


昇さんはカメラの蓋を開けると、単一電池みたいな円筒状のものを取り出して手渡してくれた。


「え、これ何?」
「フィルムさ。未来にはないのか?ははは。さて、と。腹がまた減らないうちに寝るぞ。夜が明けたら出発だからな」
「え、あ、うん…と」
「ん?ああそうか」


二人で腰かけている毛布は1枚。

しかも、シングルサイズくらい。

あたしはこの急な展開に思いっきりわかりやすく動揺してしまっている。


顔が熱い。

あたし今、絶対に真っ赤だ。

うわーん、意識しちゃってるの、バレバレだよ…

昇さんは、そんなあたしを見てふんわりと笑ってる。


お…大人の微笑み…


「心配するな。何もしないから」
「あの、でも…」
「嫁入り前のお嬢さんに手を出すような男にみえるか?」
「う、ううん!そんな!」


スパイ容疑の時は怖かったけど、女の子を無理やりどうにかするような人じゃないのはわかる。

あたしは大きく首を横に振って否定した。


「狭くてすまないな」
「ううん!だってあたしが何も持ってないせいだから」
「過去に飛ばされるなんて非常事態に備えてる奴なんておらんだろう、気にするな」



畳1枚くらいのスペースに、ふたりっきり。

意識するなというほうが無理だ。

あたしは全然寝れなくて、寝息を立て始めた昇さんにため息をつく。


「ちょっとは意識してよ…女の子とふたりきりなんだよ」


当然、返事が返ってくることなんかなくて、ふて寝するしかないあたしも目を瞑った。

フィルム、返し損ねちゃった。

朝になったら返そう。