ご飯の炊ける匂いが、今日の疲れを吹き飛ばしてくれる感じがした。みそ煮缶と一緒に炊いているから、甘い味噌の香りが鼻をくすぐる。
「もういい頃だな。蒸気が熱いから顔をひっこめろよ」
「あ、うんっ」
匂いにつられてテントから出たあたしは、少し火の側に近寄りすぎてたみたい。意地汚いと思われたかな? 恥ずかしい……。
「わあ…」
「上出来だ」
蓋をあけたら、魚と味噌で炊けたご飯のいい匂いが一気に立ち上った。お昼が乾パンちょこっとだけだったから、たったこれだけでもすごいご馳走に感じる。昇さんが蓋によそってくれた。
「ありがとう! いただきます」
「まだ蓋も熱いから気を付けろよ」
「ほんとだ、でも持てるから大丈夫」
「汁も漬物もなくて悪いな」
「未来の若者は汁とか漬物あんまり食べないから問題ナシ!」
「そうなのか? じゃあどんなものを食ってるんだ」
不思議そうに訊いてくる昇さんは、やっぱり昔の人で。
普通の満足な食事といったら、旅館の朝ごはんみたいな『味噌汁、漬物、焼魚、卵、海苔、ご飯』って感じかな。
あたしといえば朝はバナナだし、卵かけご飯だけとか、トーストだけ、みたいなのも慣れてるから、この食事でも普通に満足だ。
「こういうのも普通に食べるよ。あっためてもいないサバ缶をご飯にかけるだけとか、あるある。うーん、未来っぽいのでいったら、ハンバーグとかコロッケ、カレーライスとか?」
「それなら別に未来ぽくもないぞ? 家では食べたことがないが洋食屋でならあるからな」
「あそっか、洋食屋かぁ。じゃあ意外とそんなに変わらないかも」
「まあそれでもそれを家で食うのが普通っていうのが未来だな」
「そうかも。あ、レトルトとかコンビニ、マックとかスタバなら絶対に未来っぽいよ」
「なんだそれは?」
昇さんが空になった飯盒に昼間汲んでた水を入れて沸かしてる。男の人は食べるの早いなぁ。あれが、明日飲めるお水だ……。
ここの水は沸かさないと病気になって、最悪は死んでしまうらしい。
「レトルトはね、何年も保存できるハンバーグとかカレーがあるんだよ」
「へえ、そいつはすごいな。しかしお前が話すとつくづく英米人みたいだ」
「え? なんで?」
「そんなに敵性語がポンポン出てくるんじゃあ、もしここじゃなくて本土に出てきてたら、その服と併せて非国民まっしぐらだったな」
「敵……、あ、カタカナ語のことかぁ!」
お腹が膨れて気分がいいのか、さっきまでよりも更に機嫌よさげに昇さんが笑う。
あたしは昼間言われて謎だった敵セイ語がなんのことかわかって、すごくスッキリした。そういえば映画でもたまに外来語規制してるの、みたことあるな…。
「でもさ、昇さんは普通に乾パンとか言うよね」
「敵性語と言ったってもう浸透してるからなぁ。軍じゃいちいち日本語に直されちゃ仕事にならんよ」
「そっかぁ。あ、カメラもだね」
「ああ、あれは形見なんだよ」
「え……」
そう言ってカメラをカバンから取り出すと、昇さんはそれを思い出深そうに手で抱えながら膝に乗せて話しはじめた。
「もういい頃だな。蒸気が熱いから顔をひっこめろよ」
「あ、うんっ」
匂いにつられてテントから出たあたしは、少し火の側に近寄りすぎてたみたい。意地汚いと思われたかな? 恥ずかしい……。
「わあ…」
「上出来だ」
蓋をあけたら、魚と味噌で炊けたご飯のいい匂いが一気に立ち上った。お昼が乾パンちょこっとだけだったから、たったこれだけでもすごいご馳走に感じる。昇さんが蓋によそってくれた。
「ありがとう! いただきます」
「まだ蓋も熱いから気を付けろよ」
「ほんとだ、でも持てるから大丈夫」
「汁も漬物もなくて悪いな」
「未来の若者は汁とか漬物あんまり食べないから問題ナシ!」
「そうなのか? じゃあどんなものを食ってるんだ」
不思議そうに訊いてくる昇さんは、やっぱり昔の人で。
普通の満足な食事といったら、旅館の朝ごはんみたいな『味噌汁、漬物、焼魚、卵、海苔、ご飯』って感じかな。
あたしといえば朝はバナナだし、卵かけご飯だけとか、トーストだけ、みたいなのも慣れてるから、この食事でも普通に満足だ。
「こういうのも普通に食べるよ。あっためてもいないサバ缶をご飯にかけるだけとか、あるある。うーん、未来っぽいのでいったら、ハンバーグとかコロッケ、カレーライスとか?」
「それなら別に未来ぽくもないぞ? 家では食べたことがないが洋食屋でならあるからな」
「あそっか、洋食屋かぁ。じゃあ意外とそんなに変わらないかも」
「まあそれでもそれを家で食うのが普通っていうのが未来だな」
「そうかも。あ、レトルトとかコンビニ、マックとかスタバなら絶対に未来っぽいよ」
「なんだそれは?」
昇さんが空になった飯盒に昼間汲んでた水を入れて沸かしてる。男の人は食べるの早いなぁ。あれが、明日飲めるお水だ……。
ここの水は沸かさないと病気になって、最悪は死んでしまうらしい。
「レトルトはね、何年も保存できるハンバーグとかカレーがあるんだよ」
「へえ、そいつはすごいな。しかしお前が話すとつくづく英米人みたいだ」
「え? なんで?」
「そんなに敵性語がポンポン出てくるんじゃあ、もしここじゃなくて本土に出てきてたら、その服と併せて非国民まっしぐらだったな」
「敵……、あ、カタカナ語のことかぁ!」
お腹が膨れて気分がいいのか、さっきまでよりも更に機嫌よさげに昇さんが笑う。
あたしは昼間言われて謎だった敵セイ語がなんのことかわかって、すごくスッキリした。そういえば映画でもたまに外来語規制してるの、みたことあるな…。
「でもさ、昇さんは普通に乾パンとか言うよね」
「敵性語と言ったってもう浸透してるからなぁ。軍じゃいちいち日本語に直されちゃ仕事にならんよ」
「そっかぁ。あ、カメラもだね」
「ああ、あれは形見なんだよ」
「え……」
そう言ってカメラをカバンから取り出すと、昇さんはそれを思い出深そうに手で抱えながら膝に乗せて話しはじめた。