それから、歩きながら地元トークをたくさんした。会話があると、ないより疲れを感じない気がして、気が付いたら空が暗くなりだしている。いつのまにか結構な時間が過ぎてたんだ……。

 暑さもだいぶマシになってきていて、そのせいかさっきまでより体が軽い。


「軍にはな、独特の言葉遣いがあるんだ」
「あ、わかるよ! 『自分は、特攻隊に志願するであります!』とか言うんでしょ」
「あはは。少し変だけど、そうそう、そういう風だよ。そういえば、前に言っていたジエイ隊やそのトッコウ隊というのはどういう?」


 昇さん、自衛隊はともかく、特攻隊を知らない? もしかしてまだこの時代にはなかったのかも……。あたしは自分で自分の戦争知識の曖昧さに呆れた。

 しかも面白がられちゃって、こういう時に出す話題じゃなかったって凄い反省。あたしの馬鹿……。


「特攻隊は確か『特別攻撃隊』っていうのの略でね」
「ああ、潜航艇の事か。聞いたことがある」
「んー、それもあるけど。それって潜水艦でしょ?」
「未来ではそう呼ぶのか。潜って進む船のことだろ」
「うん。で、あたしが言ったのは戦闘機だよ。飛行機が爆弾と片道燃料を積んで敵の船に体当たりするの」
「そんなバカな……。爆撃機を使い捨てにするなんてあり得ない」
「それがあったんだよ。この作戦は日本が」
「日本が?」


 もう優秀な操縦士も充分な燃料もなくて、って言いそうになって、慌てて口をつぐむ。

 負けたって、わかってしまう。


「この無茶めの作戦で日本が勝ったんだよ。今の時点だとまだ行われてないのかも」
「そうか……楽には勝たせてもらえないんだな、体当たり前提で飛ぶなんて」


 昇さんの表情は、もう暗くてよく見えない。だけど、それまでの明るいトーンの声じゃなくて。

 木の上の鳥たちも巣に帰ったのか、静まり返る森の中で昇さんの声が重く響いた。