「お前、歳はいくつだ?」
「じゅ、17」
「そうか。照子より上だな」


 ゴクリ。乾いてあんまり出ない唾を飲んで、喉が鳴る。照子さんか……。


「まだ12かそこらの子供のくせに、モガに憧れてな。赤い靴と帽子が欲しいって親にせがんでたりしてたよ」
「ふうん…」


 12歳……ってことはまだ子供だよね。モガっていったら、まだ着物ばっかりのこの時代で洋服を着る女の人のことだよね。おしゃれが好きな子なんだな。妹さんとかかな? それを聞いたあたしは、ホッと胸をなでおろす。


「……もう、15になるかな。歳は8つ離れているが幼なじみでね、兄妹みたいに育ったんだ」
「そう、なん、だ」


 ずきん。収まりかけた胸の痛みがぶり返して、キリキリと締め付けるような痛みに変わる。昇さんは8つ上ってことは23歳……オトナの男の人だ……。


「どうしているかなぁ。弥生みたいに、髪が伸びているかもな」
「もしかして、好きだったりした?」


 懐かしそうに目を細めて話す昇さんを見ていたら、つい、からかうように茶化して訊いてしまった。訊きたい、でも聞きたくない、そんな質問なのに。


「どうかな? 今にして思えばそんなような気もしないでもないけどな。でも、俺の知ってる照子は12歳のままだから、やっぱり妹だな」
「そ、か。元気にしてるといいね」
「そうだなぁ。皆、達者にしてるといいが……本土もあちこちやられてると聞くからなぁ」
「…………」


 本土、つまり日本も、この戦争で攻撃を受けていたんだよね。


「なあ、本土は、無事か?」
「う、うん! 少しはいろいろあったみたいだけど
「そうか、なら安心だな」


 あたしは、戦争の詳しいことなんて知らない。だけど、映画になっているだけでも、東京や広島、長崎、沖縄…って、いろんなところが辛い目に遭っていることは知っている。きっとそういう題材になっていないところだって、相当な被害があったと思う。

 だけど、今の昇さんには、言ってはいけないような気がして、また嘘をついた。