「はぁ、はぁ…ちょっと…待って」
「大丈夫か?もう少し行ったら、まだ日はあるが今日は休もう」
「う、うん…」

普段だって別に運動してないわけじゃないし、通学だって毎日チャリ通のあたしは、人並みには体力があるほうだと思ってた。

玲奈と東京に遊びに行ったら1日じゅう歩き通しだったりするから、歩くのも全然平気のつもりだった。

なのに。

真っ平に見えてそうでもない土の上を、蒸し暑さの中マリンシューズで何時間も歩き続けるのは、思ってた以上に疲れる。

乾パンだけじゃスタミナがもたないのもあると思う。

水も昇さんが昨日沸かしたものをもう飲み切ってしまって、トイレに困るかもと心配したのにまるで出る気配がない。

きっと汗で、みんな出てしまったんだ。

これって熱中症なるんじゃない?もうなってるかも?っていう状態で、歩き続けてる。

息をして、足を前に出し続けるだけなのに、それが困難になってきてる。

前を歩く昇さんは、大きな荷物を背負って、ショルダーバッグも下げて、腰にもいろいろぶら下げて、そんな重装備でここに来るまでも歩き続けてきてるっていうのに、元気そのものでずんずん進んでく。

対するあたしは、ポケットにスマホが入ってる以外には何も持っていない身軽さで、この有様。

男女差はあると思うけど、軍人さんは鍛え方が違うんだなって、感心する。


それにしても、身長が高いんだな。

足も長い。

なんとなく昔の人って背が低くて短足のイメージがあったから、ちょっと意外。


バサバサバサ!


「ひゃっ」
「鳥だよ。心配ない」


木の上で音がして、敵でも潜んでたのかと焦った。


「わ、すごい…」
「空が静かになると、出てくるんだ。この辺りは特に多い。湖の側だからかもな」


見上げたら、熱帯植物園の鳥舎かと思うほどの絶景だった。

木々にとまる、カラフルな鳥たち。

まるでフルーツみたいに、宝石みたいに。


そうか、熱帯、ってこの辺りのことだもんね。

自然の中に、普通にいるんだ。

動物園とかペットショップにいるのが普通だと思ってた。

っていうより、もともとは野生動物なんだってこと、考えたこともなかった。


「きれー…」
「女は派手なものが好きなのは今も未来も一緒なんだな」
「今も?」


ずきん。

昇さんがいう、「今」の女って…

あたしはもう、このほんの少しの間に、昇さんを意識しだしてる自覚がある。


たぶん、好きに、なってしまってる。


優しくて、逞しくて、自分だって大変なのに冗談を言って笑わせてくれるこの人を、好きになるなと言われたらそれは無理だと思う。

だけど、あたしより歳も上っぽくて、もしかしたら日本に奥さんがいたっておかしくない。

そしたら、諦めるしか、ない…


あたしは昇さんの次の言葉を、息を止めて待っていた。