「よっ、と」
「はぁー、疲れたぁ」


岩場に腰掛け、昇さんがリュックを降ろした。

袋の周りにいろいろなものが括り付けられていて、いかにも重そうだ。

くるくると筒状に巻かれた毛布みたいな布に、もうひとつ同じく巻かれた堅そうな布、キャンプとかで使う感じの飯盒?にシャベル、そんな感じのがリュックの周りに紐でくっついてる。


「重たそう」
「お前とどっちが重いかな?」
「えっ、そりゃ人のほうが重いんじゃ…」
「どれ」
「きゃぁ!」


言うが早いか、昇さんがあたしを肩に担ぎあげた。


「おお、思ったより重いな」
「何それ!そういえばさっきも栄養状態が良いとかなんとかいって、女の子に向かって失礼じゃない?」
「女?どこに女がいるんだ?なぁ生男?」
「ばかぁ!降ろして!」
「ははは」


降ろされた時、地面にドスンとならないように腕で支えてくれてた。

どきん。

顔が、近いよ。

日に焼けて浅黒い肌に、瞳の白と歯が眩しい。

鼓動が一気に加速したのがわかった。


「ほら、食え」
「えっ、あっ、ありがとう」


降ろされたところでそのままボーっと立っていたあたしに、昇さんがクッキーのようなものを手渡してくれた。


「これ…」
「乾パンだ。知らないか」
「ううん、知ってる。昇さんは食べないの?」
「俺はお前と会う前に食ったからいいんだ」


手の平に、ちょこんと乗った数個の乾パン。

昭和19年なんていうからどんなものが出てくるのかと内心ヒヤヒヤだったから、見たことがあるものを見ることができて、なんだかホッとした。

カリカリの堅い乾パンを口の中で溶かすようにしながら噛む。

噛んだら、小麦粉のかすかな甘みが次第に口の中に広がってきた。

避難訓練で食べたときはつまんない食べ物だと思ったけど、結構いけるかも。


うん、意外と。


「おいしい」
「そうか?なら良かった。俺はあまり好かんがな。日が暮れて敵機がいなくなったら飯を炊いてやるからな」
「お米、あるの?お米ってすごい貴重なんじゃないの?」
「そりゃ、本土の話じゃないか?」
「そうなの?」
「俺がいた頃は配給といったってまだ普通に食ってたけど、後から来た奴の話じゃあ白い米を見るのは久方ぶりと言ってたからな」
「へえ」
「まあ、ここでも貴重には変わりないがな。他の食糧と合わせたって、せいぜい10日分くらいだからなぁ」
「そっかぁ」


なんとなく、お米って着物を売って闇で買うくらい貴重なイメージなのに。

同じ終戦前でも、本土よりこっちのほうが食べ物が豊富ってことなのかな。

食糧10日分ってことは、それくらいで別の基地に着く予定なんだな。

なんとなくそんなことを思った。


「あー、おいしかった。おかわりしてもいい?」
「また明日な」


えー、これだけかぁ…

正直、全然足らないけど、分けてもらって文句は言えない。


「さ、行くぞ」
「あ、うん」


手際よくリュックに毛布や何やらを括りなおして歩き出す昇さんのあとを追う。

雑草が足に絡みついて歩きづらい。

素足の部分に当たって痛痒い。


はぁ、サイアク。