あたしたちは近づいたり遠ざかったりする敵襲を警戒して、しばらく茂みに隠れていることにした。

だいぶ日が高くなってきて、暑さが増してくる。

茂みの中はまだいくらかはマシなんだろうから、今、外に出たらきっともっと暑いに違いない。

こんな中を2日も歩いてきて、その前からお風呂に入ってないとなれば、そりゃあ多少の臭いもするのは当然だ。

だけど、あたし的にはちょっと耐えられないなと思った。


「お風呂、入れないのツラくない?」
「まあな」
「敵がいなくなったら、すぐそこの池?みたいなとこで水浴びくらいしてきたら?」
「いや、そんな悠長にはしてられんよ。隊に合流しないと」
「合流?」
「この空襲でかなりかき乱されてな。皆散り散り逃げたからはぐれてしまったんだ」


そうか、仲間がいるんだ。


「ここはセンタニ湖といってな、大きな湖なんだ。この西端のヤコンデというところが途中の合流場所になってる。その前にでも誰か会えると心強いが…」
「そうなんだ」
「まあ、遅くとも2、3日中に辿り着けなきゃ、死んだものと思われるだろうなぁ」
「死ん…そんな」
「未来ではそうそう死なんか?」
「事故とか事件は時々あるけど…戦争はないから…」
「そうか。戦争がないのか、いいな。俺も勝って早くこんなとこオサラバしたいよ。もう戦争は御免だ。…ここへ来るまでにも沢山死んだよ」
「…………」


昇さんが小枝で泥をつつきながら、ポツリと呟いた。


こんなのって、ないよ。


いきなり話題がヘビーだ。

そりゃ戦争中なんだから当然だけど、急に死ぬとかそんなこと言われても困る。


頭がついていけない。


だけど。


そうしている間も、上空では本物の米軍機が飛び交い、地上を威圧している。


風が吹くと、爆撃で燃やされた煙の臭い。

南国の蒸れた草花の香り。


明らかに、あたしの知ってる日常とはかけ離れた臭い。


「そろそろ行くか」
「え?」
「弥生、お前はどうする?」
「えっと…」


どうする、って言われても、こんなところで置いていかれたら確実に死んじゃう。


「い、一緒に、行っても、いい?」
「女を同行させるなんて、軍規違反だな。見つかったら俺は軍法会議にかけるまでもなく処刑かもしれん」
「そ、そうだよね…迷惑はかけられないよね」


どうする?なんて聞いたくせに、連れていけないなんて。

期待して損した。

だったら最初から…


「かといって置いて行って敵に見つかりでもしたら、若い女がどういう目に遭うかなんてわかりきってるんだ」
「ちょっ…嘘でしょ?」


信じられないことに、昇さんがまた短刀を抜いて、あたしに迫る。


敵の慰みものになるくらいならいっそ死ねってこと!?


冗談でしょ?


「やめ…っ」


さっきまであんなに優しくて、もう普通に打ち解けてたと思った昇さんが、あたしの髪をわしづかみにして強く引っ張り上げた。


助けて…!