茂みに隠れたまま、あたしたちはしばらく話をした。

主に、あたしが聞かれて喋る感じで。


「では、この戦いに勝って世界一の大国を築き上げ、このようなものを作るまで繁栄を遂げるんだな」
「そうです。でもあたしはお察しの通り勉強得意じゃないので、このくらいしか知らないんですけど」


あたし、嘘をついた。


ここで負けるって言っても、機嫌悪くなるだろうし信じてもらえないと思ったから。

日本の車とか電化製品とか、世界一っていって間違いないようなものもたくさんあるし、だから全部か嘘なわけじゃないかなって思うし。


「しかしなぁ…これからどうするつもりだ?ここは元のレイワとかいう便利な時代でないどころか、日本ですらないんだぞ。ニューギニヤ島は本土のずっと南なんだからな」
「はぁ…そうなんですよねぇ」


ニューギニヤ島。

たぶん、パプアニューギニアって国のことだと思う。

地理もサッパリだからイマイチ場所はピンとこないけど、この暑さ、生えてる植物にあの綺麗な海からして、ハワイとかサイパンとか、そんな南の島なんだろうなって。


こんな風に時間も場所も超えてしまってるなんて、もう考えてもどうしようもない気がして、ぼんやりと、我ながら間抜けな返事をしたと思う。


「はぁ、じゃないだろ、ったく。お前と話してると気が抜けるな。やめやめ。敵じゃないなら堅いこと言いっこなしだ。そういえば、まだ名前訊いてなかったな、俺は昇。日が昇るの、ノボル。手荒なことをして悪かった」


そうしたら、そんなあたしに呆れたのか、昇と名乗ったその人は、敵と向かい合ってると思ってた緊張感を解いたようで大きく伸びをした。


「あは…仕方ないですよ。あたしこんな柄の服とか着てますから…。昇、さん、ですか。あたし、弥生です」
「です、とかそういうのも無し無し、なあ、これ、俺も撮れる?」
「え、あ、はい…じゃないや。うん、撮れるよ」


敬語なしと言われて、距離がぐっと縮まった感じがした。


「じゃあ、撮りま…撮るよー、ハイ、3,2,1!」


カシャっ


掛け声を掛けたは掛けたけど、昇さんは特に笑いもしないままだった。

この時代の人って、写真撮る時に笑ったりしないのかな?


「ええっ、俺、こんな汚れてんのか…参ったな。4日?いやそれより前に洗ったきりか、仕方なしだな」
「4日?」


撮った画像を見て、昇さんは決まり悪そうに顔をしかめた。

周囲の蒸れる臭いと緊張とで気付かなかったけど、昇さん、そう言われてみると結構、いやかなり汗臭い。


「ああ。ホルランヂヤがやられて、そのあと慌ただしくして2日ばかり歩き通しでここまで来たけど、センタニも既に陥落しているから寄れずじまいなんだ」
「ホル…?センタニ?」
「帝国軍の港や空港のある場所さ。今は敵が占領してる」
「そうなんだ…大変だね」
「ああ、大変だな。だけど俺は弥生のほうが大変だと思うがな」


そう言って、あははと朗らかに笑う昇さんは、さっきまでの軍人っぽい雰囲気とはもう全然違って、臭いことを除けば令和の時代にもいそうな普通のお兄さんという感じだ。

敵に攻め込まれて逃げてる最中らしいのに、タイムスリップなんてあり得ないものをしてしまったあたしを気の毒がる余裕があるらしい。