突き付けられた刃と鋭い眼差しのせいで、あたしはさっきよりもガチガチに固まって、体は自分の意志とは関係なく小刻みに震える。


「ああああ、あののの、あのっ、待っ…」
「問答無用っ!敵国諜報員ならば話してもらわねばならぬことが山とある!軍人とて所詮は女、男の俺に力で敵わぬのだから無駄な抵抗はせんことだ」
「違っ…」
「なんだその目は!涙も色仕掛けも通用せんぞ!」


もう、目がマジだよ。


色仕掛けなんか、この女子力ゼロのあたしが持ち合わせてるワケないよ。


何なの!?この状況。


100歩譲ってタイムスリップしちゃってるなら、ここは出会って恋がはじまるところなんじゃないの?


助けてもらって、そこからラブストーリーなんじゃないの?


これが現実なら、シビアすぎでしょ、リアルすぎでしょ!


それともこれも女子力ゼロのせい!?


こんなふざけたこと考えてる場合じゃないのは理解してるけど、真面目に考えることを拒否してるのか、笑ってごまかそうみたいなことばっかりが頭に浮かぶ。


まだ、夢か何かだと思いたいんだ。

だけど夢ならもっと甘口が見たいよ。



無理、ホント無理!


帰りたい帰りたい帰りたい!


元の時代に帰して!!


外の騒ぎは少し遠ざかっているみたいだった。

飛行機の音も近くない。


今なら飛び出せば逃げられる?

ううん、たぶんそんなことしようとしたら殺される。

おとなしくしてれば、なんとかなるかな?


でも諜報員ってスパイだよね?

酷い尋問とかされちゃうんだろうか…

あたしは映画で得た戦争知識的なものを総動員して考えを巡らせる。

思い出せる場面は拷問のオンパレードだった。

……しくじったスパイの扱いは敵も味方も残酷なんだよね。

死にたくない死にたくない、拷問もやめてください、どうか夢なら早く覚めて…っ!


「両手を頭に乗せて伏せろ。抵抗するなら容赦しないが、手荒なことはしたくない」
「は、ははははい」


もう、言われるままにするしかない、と思った。


茂みの中は足元がぬかるんでた。
そこにうつ伏せになり、あたしは泥で顔も服もぐちゃぐちゃになる。

口の中にも泥が入りそうで、必死に横を向いた。

蒸し暑さでムっとする泥と草の臭いが鼻に入ってくる。


「うっ」


背中に、どしんと男の人がまたがった。

顔を横にしてるところに胸を上から圧迫されて、息が苦しい。


体の線を服の上から叩くようになぞってる。

たぶん、あたしが武器を持っていないか、調べてるんだ。


潮干狩りに来てただけなのに、なんでこんなことに…


「動くなよ」


動けません!


「食い物が豊富なんだな、そっちは」
「へっ?」
「栄養状態が良さそうだ」
「ちょっ」


今、さらっとデブって言った?

栄養状態が良くてすみませんね!

頑張ってダイエットしてるんですけどね!

女子高生の体に触り放題の上、デブって!

死にたい!


「これは何だ?」
「あ…スマホ…」
「す、まほ?」


あった!

未来の証明!

これで信じてもらえるはず!


あたしはようやくこの窮地から抜け出せると、ホッと胸をなでおろした。