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 バナナが腐っていた。


「まっず……」


 高3になってすぐだっていうのに1年からの総まとめテストがあるというから、今朝はバナナ片手に一夜漬けならぬ一朝漬け。 

 それでよく見ていなかったあたしも悪いけれど、裏っかわに黒いところがあったのに気付かないで食べてしまった。

 口の中がどうしようもない甘ったるさと発酵した感じで気持ち悪い。


「あらあら、もう一本あるわよ」
「もういらない。今食べたら絶対に全部黒いとこの味するよ。もう、朝からサイアク」


 口の中の気持ち悪さをなんとか牛乳で流す。まだ二口しか食べてないけれど、あたしはキッチン脇の生ゴミカゴにバナナを放り込んだ。


「ねーちゃんもったいねー」
「うっさい。じゃ葉月が食べなよ」
「捨てたやつなんかいんねーよバーカ」


 この生意気なヤツは弟。まだ小6のくせに、あたしより背が高いのがムカツク。


「だいたいさー、ねーちゃん痩せたって一緒にプール行く相手とかいねーじゃん」
「うっさい死ねっ!」


 余計なお世話!

 あたし、古賀弥生。朝食バナナダイエット中の受験生。

 コレ、朝はバナナと牛乳だけというお手軽さで、意外と腹持ちもいいし、結構続いている。昼と夜は普通に食べていいというのが気楽。問題があるとすれば、そこまで痩せた! って実感がないところ。

 3ヶ月で1キロくらいは落ちているから、このままやれば夏までにあと1キロくらいは痩せられるかなと思っているのだけど。

 忙しなく洗面台に向かい、歯磨きしながら鏡に映る姿をチェック。

 眉ヨシ、まつ毛ヨシ、前髪…ちょっと直してヨシ、後ろ、まあヨシ! 高校入学の時に肩の上で切りそろえた髪も、ようやくウエストの近くまできた。色の白いと髪の長いは七難隠すって、言うでしょ。

 確かにプール行くような相手はまだいないけれど、大学で素敵な出会いがあるかもしれない。だから伸ばしておいて損はないし、痩せておいても損はないと思う。

 でも、校則は染めるの禁止だし受験あるから、そろそろ茶髪は一旦お別れなのだ。

 はぁ。めんどくさい。