怒鳴りつけられて、一瞬、もう本当に殺されるかと思った。


でも、いま、「死にたいのか!」って言ったよね?


もしかして、助けて、くれたの?



顔を見たいけど、まだ組み敷かれたみたいに覆い被されたまま。


声も、震えてうまく出せない。


「あ…、あり…」


茂みの中からでも、上空で爆撃が起こっているのが分かる。

立て続けに銃みたいな音、爆撃の音、遠くで物が燃える炎の音…

少しの間やんで、また飛行機の近づく音、そして攻撃音が後に続く。

どれだけの間そうしていたか、あたしの上に被さっていた人が体を起こした。


いつの間にか、震えは止まってた。


「あの…」
「やっぱり、日本人なんだな」
「え」
「髪が赤いから敵国民かと思い躊躇した。すまん」
「そっ、そんな!危ないところをありがとうございました」


その男の人は、あたしを少し不思議なものを見るような目で見ていたけど、誠実そうな真っ直ぐの眼差しで、こんなことを言って謝ってきた。


優しそうな、柔らかい声。

薄暗くてよく見えないけど、彫りの深い整った輪郭。

痩せてそうなのに、ガッチリしてる。

軍服だ…軍隊、は今の日本にはないはずだから、やっぱり夢?

にしてはリアル。


でも赤い髪って。

普通に茶髪なだけだよ…

敵国民とか、言ってることがレトロすぎ。



これじゃまるで…


「それにしても、なぜ女の身でこんなところにおる?民間人ではないのか?そもそもその妙な格好は一体なんだ、はしたない」
「え、えっと」


こっちだって聞きたい事は山ほどあるけど、彼からしてみたらあたしの存在こそが疑問なのだろう。

わかる。

だって、明らかに異質だ。


…お互いに。


とりあえず、そんなわけはないと思いつつも、現実味のあることを言ってみる。


「あの…自衛隊、の、かたですか?」
「ジエイ?何を言ってるんだ?大日本帝国陸軍を知らんわけじゃなかろう?」
「だいに…っぽん…」


ですよね…


あたしの頭の中には、この状況を説明するためのものがいくつか浮かんでいる。


一つは、ただの夢。

うん、これが一番しっくり納得。

初恋散華の影響、受けちゃってるんだよ。



もうひとつは、死後の世界ってやつ?

死にたくはないけど、海難事故なら、まあこれもわかるよね。



あとは、記憶が飛んでる系。

潮干狩りはもう終わってて、映画のロケ場所に迷い込んだ。

ちょっと無理があるけど、そんなこともあるかもしれないよね。



だけど考えたくないのに、一番濃厚な感じがするのが…

大日本帝国陸軍、なんて真顔で言っちゃう軍人コスプレにしては出来過ぎで汚れ切ったこの感じ…


「あの、ごめんなさい!変なこと聞いたついでに!今って何年ですか?」
「なんだ、頭でも打ったか?昭和19年に決まってるだろう」


ああああああ!

ほらね!

やっぱり真顔!

この人、嘘なんかついてないし、コスプレさんでも役者さんでもないよ!



本物!


本物の軍人さんだよ!


どうしよう、どうなってるの?


なんで?


今、令和だよ?


昭和19年って!



終戦が昭和20年だから戦争真っ只中…



あたし…



本当にタイムスリップしちゃってるの…………!?