少しでも早く遠くにいきたくて、あたしは走った。パシャパシャと跳ね上げる水しぶきが、ジャージをまくった腿にかかる。


「待てってば」


 晶はあたしを呼び止めるけど、大きいとはいえまだ小学生の葉月から離れられないせいか追ってはこない。


「はぁ、はぁ」


 気が付けば、ふくらはぎの真ん中くらいまで海水がきている。遠浅なせいかまだまだこんなに浅いけど、晶たちからはだいぶ離れたし、駐車場はもう見えないくらい遠い。

 さっきのダイバーみたいな装備の人も、いつのまにかいなくなっている。

 海の方を向いたら、本当に誰もいなくて、この世界にいるのがあたしだけになったみたいな錯覚。


 ……すごい。


 この広い大パノラマの景色に、ひとりきり。ここには今、空と、海と、あたししか存在していない。そんな、なんだか不思議な気分になった。

 うまく言えないけど、自分が自分じゃなくなったみたいな。海の一部になって、景色に溶け込んだような気がした。

 時間が止まったような……ううん、時間なんてもともと存在してないみたいな感覚があたしを包み込んで、心臓も波のゆらぎに合わせるみたいなリズムになる。

 目を閉じて、ゆっくり、だけど思いっきり、深く息を吸い込んだ。潮風が体の中に沁み渡る。

 1回、2回…深呼吸する。


 すー、はー。

 すー、はー。



 ゴオォォォォ!!!!



 えっ!? 耳、痛っ!


 いきなりの轟音と爆風に、あたしはしゃがみ込んで耳を塞いだ。耳の奥がキンキンする。轟音が通り過ぎた気配で、ゆっくりと顔を上げる。



 ……ココ、どこ?