お尻に波が付かないように気を付けながら、水際にしゃがんでザリザリと掘ってみる。新兵器は「草かき」。貝なのになんで「草」? って、今でも半信半疑。

 本来は庭の雑草を取るのに使うものだけど、お父さんが誰に聞いたのかたくさん獲れるらしいって全員分わざわざ買ってきた。これ、ついでに庭の草とりもさせられるとみた……。


 何年か前に来た時は熊手を持ってきていた記憶がある。お父さん曰く、熊手は生きているアサリにヒットしにくいらしい。

 生きている貝はタテになって埋まっていて、熊手だと隙間をすり抜けてしまうとか。

 確かにその時もそんなに獲れなくて、晩のお味噌汁になって終わったような……。今年はもうちょっと獲れるかな?


 カチっ

 あ!
 いま何か引っかかった感じがした!


 開始早々の手ごたえに、テンションが急上昇。なんだか恋でもしているみたいに、胸が高鳴る。貝かな? 大きいのだといいな……。

 手ごたえのあった場所を、こするようにして更に掘る。

 ゴロリっ


「あった!」


 そこには、いきなりの大物がいた。

 泥砂の付いたそれを海水で洗うと、5、6センチくらいの茶色くてツヤツヤしたどら焼きみたいな貝。


「わ、これハマグリかも!」


 正直、貝の種類なんてよくわからないんだけど、とりあえず獲って、あとでお母さんたちに分けてもらえばいいかな。

 あたしは夢中になってその周囲を掘った。

 水分を含んだ砂は重たくて、掻いても掻いても水に溶けるみたいにして元の形に戻ろうとする。

 熊手にはない平らな面で掘るから、手がすごく疲れる。


「砂、重たっ。やっぱ貝なんて買ったほうが早いって……あっ!」


 へこたれ始めたところでまた何かに当たった。


「アサ……うん、違うかな。アサリはもっとざらざらしてた気がする。ちっちゃいけどこれもさっきのとおんなじだ」


 獲れると、楽しい。
 でも疲れる、そんな感じ。

 その繰り返しで、波打ち際を伝って掘り進む。


「ねーちゃん、こっち来んなよ、俺たちの陣地だかんな」


 げ。
 葉月だ。

 もー、せっかく楽しかったのに、ホント弟ってウザい。


「陣地とかないし。てかアンタの土地じゃないでしょ」
「広いんだからわざわざ来んなってんの!」
「おー、弥生、調子はどう? こっちは結構獲れたよ」
「結構獲れてるよ。ほら」
「おお! でかいの多いね」
「えー、ねーちゃんずりーよ」
「ずるいとかないから。アンタが下手くそなんでしょ、道具おんなじなんだから」
「下手とか言うな! まじウゼぇ」
「はぁ? こっちのセリフなんですけど」
「まあまあ」


 晶が間に入ってやっと葉月がおとなしくなった。昔はもうちょっと可愛げあったんだけどな。