今日は大潮だからいっぱい獲れそうだ、ってお父さんが言っていた。

 両手に潮干狩り道具を持ったあたしは、この恋愛要素ゼロな装備を恨めしく思いながら、砂浜をずんずん歩く。潮が引いていて、駐車場から海水があるところまでが、結構遠い。

 歩くたびにナイロンジャージが擦れて、シャカシャカと音がする。いいの、どうせこんなところで出会いなんてないんだから。

 だいたい、もし出会ったところで「出会いの場所は潮干狩りの砂浜」なんて嫌だ。


 同じ海で出会うなら、やっぱり南の島! ヤシの木と、どこまでも続く白い砂浜、青い海に青い空! そう、こないだの夢で見た場所みたいな……。

 あの夢は一瞬だったし、ちょっとリアルで怖かったけど、海は本当に綺麗だった。あんな場所、日本にはきっとないよね。んー、沖縄とか?


 そんなくだらないことを考えながら、ようやく足が海水に浸るところまで来れた。

 もう少し先のほうでは、ウエットスーツ姿でザルを持って、膝くらいまで海に浸かりながら潜る勢いで挑んでる人もいる。

 こうしちゃいられない。
 そう、ここは戦場なのだ。

 貝にとってはまさに死ぬか生きるか。そして誰が最も多くの財宝を手にできるかの決戦場なのだ!


 いざ、出陣っ!!