「……よい、弥生!」
「んん……」


 あたしを呼ぶ声が聞こえた。瞼の向こうが眩しくて、あたしは目を閉じたままで、瞼をしばたたく。


「気付いた! 弥生!」


 あ、これ晶の声だ。

 そう気が付いてゆっくり目を開けると、晶がものすごい近さであたしの肩を掴んで揺さぶっていた。


「近っ!」
「よかったぁ、大丈夫かよ弥生」
「やよ~っ! もう、急に倒れるからびっくりしたよ~」


 体が重い……っていうか痛い。
 倒れた時にあちこちぶつけたみたい。


「あいたた……、ありがとう、大丈夫だよ。えへへ、なんかこういうの恥ずかしいね」
「恥ずかしくなんかないよ、とにかく良かった」
「帰ったら絶対に病院行きなよね。やよ、あれじゃない? ダイエット」
「えー、そこまで無理してないよ」
「ならいいけど。やよはそのままで可愛いんだから、無茶ダメだよ?」
「可愛いは別として。ありがと、心配してくれて。大丈夫だよ」

 玲奈がバナナダイエットのことを気にして、心配そうな顔であたしを気遣ってくれる。

 たぶん、そういうのじゃないと思うんだけど……。


「本当に大丈夫? なんもない?」
「え? あ、うん、大丈夫」


 けど、そんな玲奈よりもっと心配そうというか、なんか血相変えて、みたいな表現がしっくりくるような顔の晶。

 大汗をかくような暑さじゃないのに、髪の生え際に大粒の汗を滲ませて覗き込まれるの、ちょっと大げさすぎて焦る。

 いつもアレ危ないコレ危ないって、親みたいなこと言うのは知ってたけど、晶ってこんなに心配性だったかな……。



 あたしは玲奈や他の班の子たちと一旦別れて、大学の医務室でみんなが終わるのを待つことになった。

 でもホント、さっきの…何だったんだろう。
 夢だったのかな?


 スマホを取り出して、フォトアルバムを開いた。やっぱり、これ見たせいで夢を見ちゃったんだろうな。

 画像の奥でトンボの群れみたいに飛ぶ飛行機が、映画の爆撃機と重なる。さっき見た入り江の向こうの煙を思い出して、背筋がぞくりとした。

 怖いから、消しちゃえ。


 ピっ

 あたしはアルバムのゴミ箱にその画像を放り込んだ。でも……。「人魚」だなんて言われたり、砂を掴んだ感覚はすごくリアルだったな。

 自分の手の平をじっと見つめて、意味もなくグーにしたりパーにしたりしてみる。


 ふと、髪をかき上げたらさらさらと何かがこぼれ落ちる。医務室のベッドの上に、白い砂が散らばった。


 え……、まさかね…………。