暗闇の中、あたしは自分がザラザラしたところで横になっている感覚に気付いた。ううーん、ああこれ、あたし倒れちゃったんだ。

 あ、そうだ、さっきの画像。思い出した。『初恋散華』のワンシーンに似たのがあった。敵の戦闘機がたくさん飛んでいる空のカット。

 次のシーンでは、その戦闘機から雨みたいに爆弾が降るのだ。

 海の上では船が爆撃されて、地上では基地や武器庫がどんどん炎にまかれて、凄く残酷なシーンだった……。

 まあ、いっか。いつどこでダウンロードしたかもわからないし、あとで削除しよう。


 それにしても、なんだか遠くで騒がしい音がする。工事現場なんか近くにあったかな……?

 地響きがものすごい。
 サイレンみたいな音もする。

 もしかして、あたしのせいで救急車来ちゃってる? うわ……恥ずかしいんですけど。校外授業で倒れて運ばれたとか、恥ずかしすぎる!

 目を開けて、起きあがらなきゃ!

 焦ったあたしは、戻りかけの意識を一気にフル充電モードにして、手の平にぎゅっと力を入れて砂を握った。

 え? 砂?

 腕を伸ばして体を持ち上げたあたしがゆっくりと目を開けると、その腕がある地面はコンクリートじゃなくって、真っ白い砂が敷き詰められていた。

 まるでさっきの画像みたいな……。

 不安を感じながら顔をあげると、辺りは本当にさっきの画像そのままの海だった。

 あたしは手の中の砂をもう一度ぎゅっと掴みなおす。本当に砂浜だ。

 で、海の反対側はビーチというより森の入口みたいな雰囲気。ヤシの木とか、名前は知らないけどとにかく南国っぽい木や色とりどりの花。すごく綺麗なところ。

 だけど、どういうこと?
 まだ倒れたまんまで、夢の中なの? それともあたし、まさか死んじゃった?

 天国?
 三途の川?……じゃない海?


 視線を少しずらして上に向けると、入り江の向こうから煙が上がっていた。

 え……。
 本当に初恋散華の世界みたい……。


 ガサガサっ!

 森側のほうから音がして、あたしはハッとして向き直る。

「人魚……」
「え?」

 ジャッジャッジャッ、カシャっ!

 人……人がいた。いたけど、今、写真撮った?

 え? 何?
 その金属っぽいの、カメラだよね?すごいレトロ。本物?
 すごい変な音がしたけど、壊れているわけじゃないの?

 混乱するあたしの目の前には、今あたしを瞬撮した男の人がカメラを握りしめたままボーゼンとした顔で立っていた。

 いきなり訳わからない事態になってて、しかも撮られて、ボーゼンなのはむしろあたしのほうなんですけど?


 その男の人は、映画とかでおなじみの軍服を着ていた。少し遠くて、顔がよくわからないけど、まだ若そうな雰囲気。レトロなカメラといい軍服といい、もしかしたら映画の撮影か何かかもしれない。

 それにしたって、天文台にいるはずのあたしがこんなところにいる意味は全くわからないけど、とにかくこの人に訊けば何かわかるかも!


「ちょ…」


 ……ちょっと、と声を掛けようとして、またさっきと同じめまいに襲われたあたしは、次の瞬間またしても真っ暗闇の中に飲み込まれてしまった。