風師時花は当年とって二三歳になる、うら若き才媛――のはずだった。
国立の有名大学を卒業し、取得した簿記二級を武器に大手商社の経理部へ就職した。
研修期間をそつなくこなし、上司や同期からも一目置かれ、順風満帆なOL生活が幕を開けると信じてやまなかった。
――そうなるはずだったのだ。
彼女は現在、ひぃこら再就職に励んでいる。
(私、勉強だけは出来ますけど、それ以外がからっきし駄目なんですよね……性格ものろまですし……)
電車で二駅ほど移動してから、時花は下車した。
念のため、駅が間違っていないか何度も確認する。階段で転ばぬよう慎重にヒールの感触を認識してから、一歩ずつ進んだ。改札を出るだけで息も絶え絶えだ。
(ドジっ子、天然ボケ、間が抜けてる、不器用……いろいろ言われては来ましたけど)
頭が良いだけでは、社会人は務まらない。
仕事は人間力が試されるものだ。臨機応変な機転、咄嗟の判断、対人能力、会話力、気遣い。
その点において、時花は最低だった。のんびり、おっとり、と言えば聞こえは良いが、悪く言えば愚図でのろまで鈍臭い。